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高校で全国3連覇→大学でスランプに…「勝つことへの“怖さ”があったんです」ハードル女王・福部真子(29歳)はなぜ“消えた天才”にならなかった? 

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加藤秀彬(朝日新聞)

加藤秀彬(朝日新聞)Hideaki Kato

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photograph by(L)JIJI PRESS、(R)Hideaki Kato

posted2024/12/15 11:01

高校で全国3連覇→大学でスランプに…「勝つことへの“怖さ”があったんです」ハードル女王・福部真子(29歳)はなぜ“消えた天才”にならなかった?<Number Web> photograph by (L)JIJI PRESS、(R)Hideaki Kato

高校時代から将来を嘱望されたハードラーだった日本記録保持者の福部真子(29歳)。そんな彼女が陥ったスランプと、そこから脱出できた理由は?

 活躍できなかった大学時代、中学や高校までは声をかけてくれていたメディアから、見向きもされなくなった。自分の存在価値を否定されているようで、「人間が一番、怖い」と感じた。だからこそ、自分を受け入れてくれた2人への思いは格別だ。

「駄目な時に近くにいてくれる人を大事にしなきゃいけないし、忘れちゃいけない。あの2人は苦しい時に受け入れてくれて、一緒に練習してくれて、話を聞いてくれた。その恩は忘れません。今は寺田さんと青木さんのタイムを超えているけど、選手として超えたとは1回も思ってない。でも、いつかは超えられるように、私も頼ってきてくれる人のことは受け入れたい」

「本当は、そんな余裕はない」というのが本音ではある。「正直、ずっと1番でいたいし、できれば誰にも上がってきてほしくない(笑)」。それでも「あの2人がそういう雰囲気を作ってくれたのが、女子ハードルの始まりだったので」。

 福部には頼れる人がいて、壁を越えることができた。

 でも、世の中には、「早熟」から抜け出すことができない選手がまだ数多くいるはずだ。そんな選手たちにメッセージを送るとしたら、何を伝えるか。

 福部は「楽な道は選ぶな」と話す。

「選択を迫られた時に、茨の道を選ぶことを勧めます。早熟のタイプはポテンシャルがあるから、なぜだかわからないけど記録が伸びたっていう選手が多い。楽な道は、最初から道標や万全のサポートがある。そっちではなく、常に自分と対話して、助けてくれる人を自分で見つけて、その人を大切にして、そういう人をどんどん増やしていくべき」

「いまの環境からは逃げても良い。でも…」

 そして続ける。

「今苦しければ、その環境からは逃げてもいいんです。でも、打開策を見つけることからは、逃げるなって言いたいですね」

「エリート街道」だけを歩んでいては、気づかなかったことがある。競技引退後は、自分の経験を還元するため、同じように苦しんだ女性選手を手助けする仕事がしたい。

 今は、そんな夢も描いている。

<次回へつづく>

#3に続く
「細くて速いなら、私もそっちが良い。でも…」“菊池病”との闘病も公表…100mハードル・福部真子(29歳)が語る決意「“嫌だ”を越えるのが大事」

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