将棋PRESSBACK NUMBER
「実力としてまだ足りない」藤井聡太“八冠独占”から1年後の王座戦再戦…永瀬拓矢「止まっていた時間を前に」2人の心に芽生える“新局面”
text by
田丸昇Noboru Tamaru
photograph by日本将棋連盟
posted2024/09/08 06:01
藤井聡太vs永瀬拓矢、あの激闘の王座戦から1年。第1局は藤井が制した
永瀬は昨年4月に棋聖戦で佐々木大地七段、同8月に竜王戦で伊藤匠六段、今年3月に叡王戦で伊藤七段に、いずれも挑戦者決定戦で敗れて藤井への挑戦権を逃した。精神面で問題があったという。しかし今年7月に王座戦の挑戦者決定戦で羽生九段に勝ち、1年ぶりのタイトル戦に登場した。
王座奪還への挑戦権を射止めた永瀬は、こう決意を語った。
「結果をやっと出せて良かったです。それが王座戦というのは運命的なものを感じます。藤井さんとの1年ぶりのタイトル戦に、しっかり準備して戦いたい」
「成長が問われる」「止まっていた時間を前に」
同タイトルの初防衛に挑む藤井は八冠独占後、この1年間で竜王戦、王将戦、棋王戦、名人戦、棋聖戦、王位戦で防衛し、第一人者の実力を存分に発揮してきた。棋聖は通算5期獲得、王位は5連覇によって、最年少記録で永世称号を取得した。ただ内容的に押されている将棋が散見し、不調説が取りざたされたこともある。今年6月には叡王戦で初めて敗退して八冠の一角が崩れた。その一方で藤井を破った21歳の伊藤叡王は、膨大な勉強量による強さが絶賛されている。
「最近は経験の少ない将棋になることが多く、局面ごとの判断力がまだ十分ではない」
藤井はこのように、課題を自己分析している。それを克服できるかどうかに注目したい。
そんな藤井王座に永瀬九段が挑戦する王座戦の第1局は9月4日、昨年と同じく神奈川県秦野市「元湯陣屋」で行われた。保持者と挑戦者を入れ替えたリターンマッチである。
この対局場と言えば――今から72年前の1952年2月。王将戦第6局で升田幸三八段が木村義雄王将・名人との対局を拒否し、社会的にも大きな問題となった。昭和将棋史に残る「陣屋事件」の対局場でもある。
両対局者は前日会見で次のように語った。
藤井「1年ぶりの再戦は、自分自身の1年間の取り組みや成長が問われるシリーズになる」
永瀬「この1年間は足りていない精神面に向き合ってきた。自分の中で止まっていた時間を前に進めるために戦いたい」
第1局、藤井は「△3三金」の手法を用いた
王座戦第1局では「振り駒」が行われ、永瀬の先手番に決まった。持ち時間は各5時間。消費時間はチェスクロックですべて加算される。両者の対戦成績は藤井の15勝、永瀬の7勝。ちなみに、永瀬は「元湯陣屋」での過去の王座戦で負けなしの5勝で、昨年は藤井に勝利している。