ボクシングPRESSBACK NUMBER

「ドヘニーは身も心も削られていた」元世界王者・飯田覚士が分析する井上尚弥の“打たせずに倒す”勝ち方…「あえて課題をあげるとすれば?」 

text by

二宮寿朗

二宮寿朗Toshio Ninomiya

PROFILE

photograph byTakuya Sugiyama

posted2024/09/06 18:01

「ドヘニーは身も心も削られていた」元世界王者・飯田覚士が分析する井上尚弥の“打たせずに倒す”勝ち方…「あえて課題をあげるとすれば?」<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

ドヘニーを7回TKOでくだした世界スーパーバンタム級4団体統一王者・井上尚弥。元世界王者・飯田覚士が王者・井上の強さを徹底分析した

「6ラウンドの中盤に入ってドヘニー選手が弱り出したのは間違いないこと。フェイントからのパンチも随分と当たって、身も心もだいぶ削られていたので、最後まで持たないと自分でも感じていたんじゃないでしょうか。そのラウンドの最後のほうは、もう足も止まっていましたから。(ボディーを)背中にもらって、レフェリーにもアピールしていましたよね。結局、7ラウンドの始めに棄権することになりましたけど、見ていても限界だったとは感じました」

 今回、注目されたのがドヘニーのウエイトだった。体重を大幅に戻すことで知られており、今回も当日は11kg増の66.1kg。井上とは3.4 kgの体重差となった。パワーはついても、スピードやスタミナにも影響が出ないとは言い切れない。だがドヘニーの動きを見ても、コンディションに問題はなかったというのが飯田の見立てだ。

「世界にはいろんなボクサーがいるなって思いましたね。10kgほど増やしても全然動けていましたし、そのような体質というだけ。重さのアドバンテージを活かそうとすると(スピードやスタミナの)デメリットが出てきてもおかしくはない。でもそういったことはなくて、今回はあくまでも尚弥選手に(体力を)削られたという印象です」

ロマチェンコに通じる井上尚弥の勝ち方

 ダウンシーンはなくとも、派手さはなくとも、結果的には“井上強し”を印象づける試合となった。相手の作戦と攻め手を封じ、クリーンヒットをもらうことなくジワジワと弱らせたうえで丁寧に、そして完璧に勝利をつかんでいく姿に、飯田は“ハイテク”ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)を重ねる。対戦した相手がサジを投げる途中棄権が多いために「ロマ勝ち」とも称されているが、それに似た感覚があった。

「ロマチェンコ選手の場合、相手はどうやっても当たらない、手に負えないと相手に悟らせながら一方的に攻めてギブアップに持っていくやり方。これがいわゆる“ロマチェンコ勝ち”です。でも尚弥選手の場合はそれに加えて一発で仕留める力がある。今回倒せなかったにしても、それが伝わってくる試合ではありました。来るんだったらカウンターだし、来ないんだったらガードを下げて自分から行く。打たせずに打つ、のがロマチェンコ選手だとしたら、打たせずに倒す、のが尚弥選手。このスタイルを突き詰めていくとするとなれば対戦相手は、たまらなく嫌でしょうね。そののち“井上尚弥勝ち”という言葉が出てくるかもしれません(笑)。

(ルイス・)ネリに一発もらった反省を活かして井上真吾トレーナーが強調していたように“丁寧”を意識するだけで、自分のボクシング自体を変えてきた。プレッシャーの掛け方がもっと精密になり、相手の攻め筋を徹底的につぶして、より怖いボクサーになったなと感じました。センチ単位のヒリヒリ感という部分ではネリ戦以上でした」

 進化を遂げるモンスターにとってターニングポイントとなる一戦となったと言えるのかもしれない。

課題と言うほどではありませんが…

 敢えて課題を挙げるとすれば?

 そう尋ねると、飯田は「うーん」と困った表情を浮かべながらもこのように応じた。

【次ページ】 課題と言うほどではありませんが…

BACK 1 2 3 NEXT
井上尚弥
飯田覚士
TJ・ドヘニー
ルイス・ネリ

ボクシングの前後の記事

ページトップ