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「自分なんて全然ちっぽけ」井上尚弥がNY熱烈歓迎でも“謙虚なチャンピオン”を崩さなかった理由「授賞式翌日はドジャース大谷観戦で…」 

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杉浦大介

杉浦大介Daisuke Sugiura

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photograph byJIJI PRESS

posted2024/06/14 17:00

「自分なんて全然ちっぽけ」井上尚弥がNY熱烈歓迎でも“謙虚なチャンピオン”を崩さなかった理由「授賞式翌日はドジャース大谷観戦で…」<Number Web> photograph by JIJI PRESS

全米ボクシング記者協会(BWAA)の表彰式&夕食会に出席した井上尚弥。米リングマガジンのダグラス・フィッシャー編集長(左)からベルト2本を受け取り、BWAAジョセフ・サントリキート会長(右)から「シュガー・レイ・ロビンソン賞」の盾を受け取った

「雰囲気もすごく良かったし、ニューヨークに来たかいがあった。やっぱなんかこう、待ち望まれているんだなっていうものを感じました」

 本人のそんな言葉通り、実際に井上の久々の渡米が待望されていたことは間違いない。2024年の年明けに年間最優秀選手賞の受賞が決まると、BWAAのジョセフ・サントリキート会長は日本にいた井上に直接電話を入れてこの栄誉を報告。そこでの会話で手応えを得たのか、直後、現在116人を数えるBWAA会員(正会員91人、準会員25人)の中で唯一の日本人メンバーである筆者はサントリキート会長から「イノウエが表彰式に来ることになったらいろいろと協力してほしい」と告げられていた。

 ルイス・ネリ戦に勝った井上のセレモニー参加が正式に決まると、BWAAはさっそく動き出す。5月14日、「イノウエが表彰式&ディナーにやって来る」という異例のプレスリリースが発信された。そのリリースはこれまでこの表彰式に縁遠かった複数の日本メディアにも送られ、準備は整えられていった。

 これらの動きからは、2020年以降、米国では戦っていなかったモンスターのアメリカ再上陸がイベント化し、今年の表彰式の目玉として迎えられたことが見えてくる。

チャンピオンが少しだけ小さく見えた瞬間

 表彰式での注目はやはり井上がどんなスピーチをするか。今年2月、大橋ジムで筆者がインタビューした際、井上は表彰式への参加自体は「前向きに考えています」と述べていたものの、何語で、どんな話をしようかと気を揉んでいた。

「6月の頭なら全然行ける日程ではあると思うんで、前向きに考えています。ただ(英語の)スピーチがありますよね……。表彰式で行く限りではあるだろうなと思うので、そこが一番気になります(笑)」

 大勢の人が見守る前で、母国語ではない言葉でスピーチするのは並大抵のことではない。その難しさはモンスターをもってしても同じ。普段は弱みを見せない怪物ボクサーが、その話をする時ばかりは一瞬、小さくなったように思えたほどだった。

 しかし、やはりチャンピオンである。

 笑顔を浮かべて表彰式の壇上に立った井上は、そこでもいつもの堂々とした姿に戻っていた。まずは「こんばんは。今夜、この授賞式に出席することができて光栄です。ありがとうございます」と綺麗な英語で挨拶。その後に「英語が上手に話せないので、ここからは日本語でお話ししますことをお許しください」と断ると、通訳を介しての日本語スピーチにスムーズに切り替えた。

【次ページ】 300人の前で…井上尚弥スピーチ全文

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