プロ野球亭日乗BACK NUMBER
「えっ!オコエ瑠偉にセーフティースクイズ?」阿部慎之助監督の采配に異論が…巨人首位でも得点力不足の理由 思い出すのは長嶋監督時代の落合博満?
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph bySANKEI SHIMBUN
posted2024/06/03 17:17
交流戦ソフトバンク戦、巨人・阿部慎之助監督のオコエへのセーフティスクイズ指示について賛否両論が巻き起こったというが…果たして監督の意図は?
巨人になぜ落合が必要なのか?
そしてそのオフに長嶋監督は、中日からフリーエージェントとなった落合博満内野手(前中日監督)を獲得した。この年の12月に40歳となった落合の獲得には、球団関係者やOBからの猛反発、猛反対があった。それでも当時ニッポン放送のアナウンサーだった深澤弘さん(故人)を“使者”に立てて、長嶋監督は落合の補強をまとめたのである。
なぜ落合が必要なのか? 批判的な声の中で、長嶋監督に直截的に聞いたことがあった。
答えは鮮明に覚えている。
「“風除け”が必要なんです。このチームはひ弱な選手ばかりで、逆風のときにその逆風を受け止められる選手がいない。そういう存在として、いま巨人には落合が必要なんだ。チームが苦しいときに、何かをしてくれる。ある意味、個性の強い落合の存在は、毒になるかもしれない。でもこのチームには毒も、それもかなりの劇薬が必要なんです」
プロ2年目となった松井の成長もあるが、翌年の巨人は落合という風除けを得てチーム打率もリーグ3位まで上げペナント奪回に成功する。落合獲得で、打線はどん底を脱出することができたのだった。
その後の巨人は松井さん、高橋由伸前監督、現役時代の阿部監督、と生え抜きの主力打者が“風除け”の役割を果たしてきた。打線が低迷し、何とかしなければならない場面では、彼らが逆境を切り開いてチームを引っ張ってきた。
そして直近では坂本である。
坂本もまたチームの逆風を受け止めて、何とか活路を切り開ける“風除け”となれる選手である。それが19年、20年のリーグ連覇に繋がっているのだが、ここ2、3年は故障もありフル出場もできず、本来とは程遠い打撃内容となってしまっている。今季も往年の輝きはなかなか取り戻すことができないままに、現在を迎えているのが現状である。
ならば本来なら岡本が、その役割を引き継ぐべきなのはいうまでもない。キャンプで阿部監督も、優勝のための打のキーマンとして岡本を指名。「岡本がどれだけ打点、勝利打点を挙げられるか」と語っていた。6月2日時点で10本塁打はリーグ2位。5月26日の阪神戦の9回に放った起死回生の同点ソロや30日のソフトバンク戦の逆転2ランなど、その存在感を示す打席ももちろんある。
いまの巨人には“風除け”となれる選手がいない
その一方で27打点はリーグ3位。得点圏に走者を置いて20打席連続無安打など、走者を置いた場面での突破力には不満が残るところだ。しかも打てなくなると、スランプが長い。逆風を受け止め、先頭に立って“風除け”となる選手としては、心許ない部分が多く残る。これまでも個の力で逆境を切り開くというよりは、長男・坂本の後ろからついて行ってフォローする、そんな次男坊的な役割だと力を発揮するタイプで、そこからなかなか抜け出せないのかもしれない。