プロ野球亭日乗BACK NUMBER
「えっ!オコエ瑠偉にセーフティースクイズ?」阿部慎之助監督の采配に異論が…巨人首位でも得点力不足の理由 思い出すのは長嶋監督時代の落合博満?
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph bySANKEI SHIMBUN
posted2024/06/03 17:17
交流戦ソフトバンク戦、巨人・阿部慎之助監督のオコエへのセーフティスクイズ指示について賛否両論が巻き起こったというが…果たして監督の意図は?
ただ、この選択を考えるとき、頭に入れなければならないのは現在の巨人打線が置かれている厳しい状況だった。この日も結局、3安打の完封負け。今季は長打も少なく、安打もつながらず1点を取るのに四苦八苦する試合が続いている。交流戦開幕前までのチーム打率2割2分9厘、チーム得点113点はいずれもリーグ最下位だ。投手陣の踏ん張りで何とか貯金2つの3位で交流戦に突入できたが、極端な貧打は目を覆うばかりなのである。
そういう打線の状況下でおそらく阿部監督が一番、恐れたのが内野ゴロ併殺の間に同点に追いついたはいいが、2死走者なしという状況になってしまうことだっただろう。
ならばこの数少ないチャンスで一気に逆転を狙う――。
「ノーアウトでしたし、(三塁走者の生還は)打球判断になって、ベンチの都合のいいサインになってしまうけど……。1死二、三塁で逆転の形は作れた。そこで打てなかった」
試合後の阿部監督のコメントが、その狙いを裏付ける。セーフティースクイズのサインは「とりあえず同点」ではなく、一気に逆転のシチュエーションを作り出すための攻撃的采配だった。いまのチーム状況、打線の力を考慮し、ある意味、批判を恐れずに阿部監督が打った勝負手だったのである。
巨人の得点能力が低下している理由
いまのチーム状況をしっかり把握しているなら批判は当たらないし、反省すべきはセーフティースクイズのサインではないということだ。
この局面だけなら、反省点はしっかりバントを転がせなかったオコエの失敗。ゴロゴーのサインが出ていたにもかかわらず中途半端な走塁で、しかも突っ込まずに本塁前で止まってしまった立岡の走塁が挙げられる。
しかし根本的な部分で言えば、やはり1死二、三塁から犠飛も打ち上げられずに、1点も奪えなかったクリーンアップの勝負弱さだ。今年の巨人がここまで得点能力を下げている一番の理由も、そこにあるのは明白である。
交流戦が始まる前の巨人の主力打者の得点圏打率は丸(.222)吉川(.186)岡本(.235)坂本(.179)という低さである。もちろん得点圏打率だけが全てではないが、なかなかチャンスを作れない上に、好機に1本が出ない。
それが巨人打線の現実なのである。
思い出すのが1993年のことだった。この年から長嶋茂雄監督(現巨人軍終身名誉監督)が就任したが、今年と同じようにチーム打率、チーム得点はリーグ最下位と打線が低迷して3位に沈んだ。後に主力となる松井秀喜外野手はプロ1年目。それまでチームを支えてきた4番の原辰徳内野手(前監督)は故障もあって出場98試合で打率2割2分9厘の11本塁打に終わっている。
新外国人選手のジェシー・バーフィールド外野手も26本塁打でチーム最多の53打点をマークしたが、打率は2割1分5厘と確実性を欠いていた。規定打席到達者で最高打率は川相昌弘内野手(現一軍内野守備コーチ)の2割9分で、とにかく得点能力の低さが最大の敗因となったシーズンである。