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「ブレイキンで人生が豊かになる人を増やすために」パリ2024新競技で注目のBボーイ・Shigekix22歳が抱く大志「みんなの想像を超える存在になりたい」
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byKiichi Matsumoto
posted2024/06/19 10:00
初の大舞台を前に強い決意を語ったShigekix
ブレイキンはダンサー同士のコミュニケーション
大志を抱くShigekixの前に次なるステップとして現れたのが、世界で何十億人が観るというオリンピックの舞台だった。
パリ2024で初採用されるブレイキンは1対1のバトル形式で行なわれる。
DJがかける、曲の間奏部分(ブレイク)を使った音楽に合わせてダンサーは交互に踊る。DJが何をかけるか、テンポも曲調もバトルが始まるまでわからないため、ダンサーは即興で踊らなければならない。しかも先攻、後攻が違えば、踊るべき音楽のパートも変わってくる。時間の長短も特に決まっていない。
その時、その場でしか生まれないダンス。Shigekixはそれをジャズにおける即興演奏に例える。
「ダンサー同士のコミュニケーションなんですよね。言葉を交わさないけど、お互いに見て取れるものがある。音楽も即興だから、相手だけでなくDJとセッションしている感覚もあります」
もちろん練習で事前にさまざまな種類の動きを身につけてはいる。だが、パターン化されたものだけでは役に立たない。いかに音楽に合わせ、瞬時の閃きで、手持ちの技の中から最適解を見つけ出して組み立てるか。
どれだけ技数が多くとも、高難度でも、音楽にフィットしないデタラメな動きでは評価されない。相手と同じ動きをすればパクりだと言われ、どんなにすごい動きでも同じことを繰り返せば、それ何回やってんだよと罵られる。
そこに規定演技を披露する発表会的なダンスとは違うゲーム性があり、それぞれのスタイルが現れる。
1970年代初頭にニューヨークのブロンクスで始まったとされるブレイキン。新しい文化が世界に広まるきっかけの一つが1983年公開のアメリカ映画「フラッシュダンス」で、作品内でBボーイたちが見せた1分あまりの映像が世界中に衝撃を与えた。
日本でも感度の高い若者たちがこの未知のダンスに引き込まれ、映像を何度も見返しながらBボーイ第一世代となっていく。
「音楽へのアプローチの仕方にこだわっています」
映像で伝わり拡散していくダンスと文化。Shigekixにも「ブレイキンを始めた頃に毎日見てました」という原点となる映像作品がある。
一つは先輩からもらった韓国のBボーイ、BORNとPHYSICXのDVD。特にPHYSICXのスタイルに強く惹かれ、ポンテ広場での練習に向かう車の中で目に焼きつけた。
「それを見てモチベーションを上げてから練習に行く。BORNも魅力的だったけど、当時の僕には、よりスキルを全面に出しているPHYSICXがカッコよく見えたんです」
歴史ある世界大会の映像にも熱中した。日本のBボーイたちが強烈なパフォーマンスを見せている「The Notorious IBE」の2008年大会、「Battle of the Year」の2009年大会などは今でも強く印象に残っている。練習の行き帰りで繰り返し見たその映像のエッセンスがBボーイとしての血となり肉となっていった。
そして、この夏はShigekixの番だ。見る側ではなく、見られる側として――。どんなブレイキンの大会よりもたくさんの視線が集まるフロアに立つ。
Bボーイそれぞれにスタイルが違う中で、Shigekixがもっとも重視するのは「ミュージカリティ」といわれる音楽との一体感。踊りながら音楽をよく聴き、ときには先読みして、動きを音にはめる。
「動き、モーション、細かいところはたくさんこだわっていますけど、全体のスタイルでいうと音楽の部分。どういう音楽がかかるか、その時にならないとわからない中で、音楽へのアプローチの仕方にはすごくこだわっています。そこに着目してくれたら嬉しいです」
あらゆる動きを高いレベルでこなすShigekixの動きを、一見してすべて捉えるのは不可能に近い。例えば録画して細部に目を凝らせば、そのたびに新しい発見があるだろう。
「音に合わせているというより僕が音を奏でているぐらいの感覚。音楽が僕の踊りについてきているように見えるのが理想です」
身体が奏でるブレイキン。パリ2024でのバトルが終わったとき、それが次の世代のインスピレーションに変わっていく。
Shigekix
2002年3月11日生、大阪府出身。本名・半井重幸(なからいしげゆき)。7歳からブレイキンを始め、初採用された2018年ユースオリンピックで銅メダル。2020年のRed Bull BC One World Finalを大会最年少の18歳で優勝。昨年のアジア大会金メダルによってパリ2024出場権を獲得した。166cm、58kg
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。
《初心者必見!》パリ2024で初めてオリンピック競技に採用された「ブレイキン」とは? Bボーイ界のリーダー・KATSU ONEが語る4つの観戦ポイント はこちら
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