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藤井聡太21歳カド番で知る「秒読みの怖さ」羽生善治や升田幸三も“勝ち筋見落とし”ポカの一方で…ひふみん「リズムに乗ると調子よくなる」 

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田丸昇

田丸昇Noboru Tamaru

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posted2024/05/16 06:00

藤井聡太21歳カド番で知る「秒読みの怖さ」羽生善治や升田幸三も“勝ち筋見落とし”ポカの一方で…ひふみん「リズムに乗ると調子よくなる」<Number Web> photograph by NumberWeb

叡王戦第3局で敗れた藤井聡太八冠。秒読みの妙も勝負を分ける要因となったのかもしれない

 序盤から惜しみなく持ち時間を使って長考を重ね、中盤で秒読みになることも珍しくなかった。自身をわざと苦境に追い込むような持ち時間の使い方は「将棋界の七不思議」といわれた。当の加藤は、こう語ったものだ。

「読み切るために時間をかけて考えます。将棋は限りなく深いので実際は不可能ですが、そうした努力は棋士の使命だと思います。時間に追われて大魚を逃したこともありますが、秒読みでもリズムにうまく乗ると調子よく指せます。だから、いつまでたってもやめられない(笑)」

 加藤は持ち時間を使い切っても、記録係に「あと何分?」と繰り返して聞き、「1分将棋です」の返事を聞いてから読みに集中した。そのやりとりを読みのリズムにしていたようだ。

 加藤はNHK杯戦で優勝が7回、民放の早指し棋戦で決勝に6回進出した(そのうち3回優勝)。普段の対局で秒読みになることが多いので、短時間のテレビ棋戦を苦にしていなかった。そんな加藤は「秒読みの神様」と呼ばれたが、敬虔なクリスチャンとして違和感を覚えた。大山康晴十五世名人に命名された「早指しの大家」が気に入っているという。

「大山-升田」の名人戦で起きた時間切れ負け

 秒読みでは直感的に浮かぶ「勘」が大事で、大棋士や強者ほど正しいという。NHK杯戦を例に挙げると、最多優勝は羽生九段の11回。次いで大山十五世名人の8回、中原誠十六世名人の6回と続く。ちなみに勘の字は「はなはだしい力」と読める。

 1手60秒の秒読みの場合、記録係は「30秒、40秒、50秒、1、2、3……8、9」と読み上げ、対局者は10を読まれたら時間切れ負けとなる。

 1954年の名人戦(大山名人-升田幸三八段)第2局では、実際にそんな事態となった。秒読みだった升田は記録係に「10」と読まれたのだ。新聞の観戦記によれば、大山は「あっ」と声を上げ、升田は「時間が切れたのか」と記録係に聞くと、「はい、少し」の返事に「それじゃ、負けだ」と投了したという。升田は盤面に集中するあまり、秒読みの声を失念したようだ。なお、終了局面は升田の勝ち筋だった。タイトル戦で時間切れ負けは、本局が唯一の例である。

 ある作家が書いた将棋小説の秒読みの場面で、最後を「10、9、8……2、1」と逆に読んだが、それはロケット発射や大晦日の新年へのカウントダウンである。

 対局者にとって、秒読みになるのは辛い状況だが、形勢が不利なときはあえて秒読みにすることもある。相手の対局者に対して自分の指し手を考えさせまいと仕向け、早く指させることで疑問手を誘発させるのだ。

「身を捨ててこそ浮かぶ瀬あれ」の謀といえる。

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