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藤井聡太21歳カド番で知る「秒読みの怖さ」羽生善治や升田幸三も“勝ち筋見落とし”ポカの一方で…ひふみん「リズムに乗ると調子よくなる」
posted2024/05/16 06:00
text by
田丸昇Noboru Tamaru
photograph by
NumberWeb
5月は名人戦(藤井聡太名人-豊島将之九段)と叡王戦(藤井叡王-伊藤匠七段)の対局が並行して行われている。両タイトル戦の方式を比較すると、7番勝負と5番勝負、2日制と1日制、持ち時間は各9時間と各4時間の違いがある(いずれも前者が名人戦)。消費時間を計測する手段も違っていて、勝負に微妙に影響しているようだ。それに関連して「秒読み」にまつわる公式戦の対局でのエピソードを田丸昇九段が紹介する。【棋士の肩書は当時】
消費時間を「加算」する方が秒読みになりやすい
8タイトル戦のうち、竜王戦、名人戦などは59秒以下の消費時間を「切り捨て」(ストップウォッチ方式)にする。叡王戦、王座戦などはすべての消費時間を「加算」(チェスクロック方式)する。
前者の場合、消費時間を20分20秒、10分30秒、5分40秒、1分50秒、0分59秒と使うと、秒を切り捨てにするので実際の消費時間は「36分」となる。後者の場合、前記の消費時間をすべて加算するので「39分19秒」となる。3分ほどの差だが、指し手が進むにつれて消費時間は前者より増えていく。終盤では持ち時間は使い切って「秒読み」になりやすい。
叡王戦の第2局と第3局で藤井叡王が同学年で21歳の伊藤七段に連敗したのは、伊藤の研究の成果、藤井の不調説などが取りざたされているが、秒読みも一因になったかもしれない。
第2局で藤井は66手目に8分を使い、1手60秒の秒読みに入った。伊藤も69手目に秒読みに入り、両者の秒読みでの寄せ合いが繰り広げられた。そして、伊藤は87手目の王手で藤井の玉を即詰みに討ち取った。どちらにも勝機があった形勢不明の難局だった。
第3局で藤井は91手目に12分を使い、秒読みに入った。伊藤も96手目に秒読みに入った。それから秒読みでのぎりぎりの攻防が続いた末、伊藤が146手で難解な戦いを制した。
藤井を上回った伊藤と、思い出す5年前の広瀬-藤井
藤井は今年1月から王将戦、棋王戦、名人戦、叡王戦でタイトル防衛戦に臨んでいて、4月中旬の名人戦第1局までタイトル戦の対局で通算16連勝していた。
そのうち今年の10局分(棋王戦の持将棋を含む)の残り時間は、13分以上の2桁が6局、3分以上の1桁が4局だった。全体的に押し気味の将棋が多く、持ち時間に余裕を持たせていた。しかし、叡王戦第2局と第3局は秒読みになって連敗し、名人戦第2局は逆転勝ちしたが、残り時間は2分と切迫した。