スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
大谷翔平だけじゃない…MLBピッチャー「ヒジ故障者が多すぎる」問題、原因はピッチクロックか、球速か?「だから大谷翔平は背中の筋肉を鍛えた」
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKYODO
posted2024/04/27 11:06
4月26日、ナショナルズ戦の試合前。レフトの守備練習を行い、笑顔を見せるドジャース大谷翔平(29歳)
フライボールを打つためのアッパースイングを意識した打者に対抗する手段として、投手たちは高めにハードなボールを投げるようになった。高めの球はアッパースイングだと捌きにくくなるからだ。
川村監督の指摘で面白かったのは、大谷は高めのハードスローに対抗するため、のけ反るような打撃フォームに取り組むようになり、それを実現するため、広背筋からハムストリングを鍛えたというのである。
つまり、高めのハードボールに対して、体の後ろ側を鍛えることで対抗、実際に長打を連発している(4月1日から25日までの打率は.386で、4割打者が誕生するのではないかと、内心密かに期待している)。
大谷のような稀代の打者の登場だけではなく、2022年からはナショナルリーグも指名打者制度の導入に踏み切り、投手には息を抜く暇がなくなった。それだけ――リスクが増えているということになる。
この傾向はメジャーリーグのレベルにとどまらず、アマチュアにまで波及している。14日の放送では、アメリカでは高校生でトミー・ジョン手術に踏み切る選手が少なくない、とアナウンサーがコメントしていた。
しかし、2010年代中盤でさえ、すでにトミー・ジョン手術は「カジュアル」なものだった。スプリングトレーニングの取材中にとある球団の関係者に話を聞いたところ、
「ドラフトするにあたっては、もちろんトミー・ジョン手術を受けたかどうかも検討材料になる。けれど、受けたことはマイナス要素にはならない。むしろ、『もう済ませてるんだな』という見方をするんだ」
という声を聞いて、驚いたことがあった。
手術への抵抗感については、日米で大きな差がある。
日本球界への影響
さて、こうしたアメリカのトレンドは日本球界にどのような影響を及ぼすだろうか。
日本の球場はホームランが出やすい球場が実際に多いから(東京ドーム、神宮が代表例)、投手はその対策として「配球」「コントロール」を磨いてきた歴史がある。このあたりはアメリカと発想が違うが、最近はハードボールを投げられる若手が増えてきた。
佐々木朗希。
山下舜平大。
彼らが登板するとなれば、それだけで球場へと足を運ぶ価値があるが、アメリカ的な視点では、
「ハードボールを投げ、相手打線をドミネート(支配)する力を持っているが、将来的にトミー・ジョン手術を受ける可能性もある」
という見方になる。出力が大きいということ、それはリスクに直結するのだ。
石川とバウアーの“共通点”
私の取材経験では、「出力」がひとつのキーワードになると思っている。
東京ヤクルトスワローズの高津臣吾監督は、44歳を迎えた大ベテラン、石川雅規についてこんなことを話してくれた。