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大谷翔平だけじゃない…MLBピッチャー「ヒジ故障者が多すぎる」問題、原因はピッチクロックか、球速か?「だから大谷翔平は背中の筋肉を鍛えた」
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKYODO
posted2024/04/27 11:06
4月26日、ナショナルズ戦の試合前。レフトの守備練習を行い、笑顔を見せるドジャース大谷翔平(29歳)
■95マイル以上のフォーシーム、シンカーの割合
2008年 13%
2023年 35%
■85マイル(約137キロ)以上の変化球の数
2008年 3万3956球
2023年 7万7300球
こういうデータがパッと出てくるところもすごいが、投手たちがいかに「スピードへのあくなき欲求」を進化させてきたかが分かる。
現代はまさに、「豪速球」時代なのだ。
“ハードスロー”時代
豪速球時代の到来は、打者の進化とも関係する。
2010年代、アメリカでは「フライボール革命」が進んだ。打者の遠くに飛ばす技術が著しく発展した時代である。そのあたりの事情は日本では2021年に翻訳が出た『アメリカン・ベースボール革命』(化学同人)に詳しいが、一例を挙げると、メッツで並の選手だったジャスティン・ターナー(現ブルージェイズ)が分かりやすい。2014年にドジャースに移籍したころから、OPS(出塁率と長打率の和)が.900に近づいてきた(.800を超えれば球団に必要とされる選手といえる)。ターナーは打撃フォーム、バットの軌道を修正し、長打を打てる選手へと変身したのだった。
ターナーだけではない。同時多発的にフライボール革命は進んだ。そして投手たちはその対抗策として、ハードなボールを投げることを選択した。
アメリカの野球は相手に対して「かわす」ことをしない。真っ向勝負だ。パワーに対しては、パワーで対抗する。その結果として、数値で示されるように95マイル以上の球の割合は2倍以上に増え続け、変化球でさえ85マイルを超える球種が多く用いられるようになってきた。
だから大谷翔平は背中を鍛えた
こうした投手と打者の相互作用による「進化」は、大谷の打撃にも見ることができる。
4月23日付の「朝日新聞」には、筑波大学の川村卓・硬式野球部監督(同大教授〈動作解析〉)の視点で、大谷の進化が語られている。