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“妥協しない男”ポステコグルーの問いに徹夜で答えを…松永成立が証言する“横浜F・マリノスのGK革命”「アンジェはリスクなんて言葉を使わない」
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byEtsuo Hara/Getty Images
posted2024/02/12 11:04
2019年、優勝シャーレを掲げる横浜F・マリノスの松永成立GKコーチ。アタッキングフットボールで大きな役割を担うGK陣を鍛え上げた
松永は守備時のセットプレーも担当し、職人気質ゆえにやるとなったらとことん追求した。相手側の映像を隅々まで見て頭に叩き込み、パソコンを使って守備のオーガナイズを作成してボスに説明するのがルーティンとなった。
初心者に近かった映像の編集作業も数をこなしていくことで随分とうまくなり、図解入りの練習メニューを作成して活用するなど、腕前を上げている。
朴一圭の覚醒、そして15年ぶりのリーグ制覇へ
ボスの就任2年目となる2019年シーズン、J3のFC琉球から朴がやってきた。無名に近いGKを育て上げるミッションが新たに加わったのである。
「最初にパギ(朴の愛称)を見たとき、この戦術に本当にフィットできるのか不安しかなかった。キックも両足蹴れると言っても、ミスが多かった。ただ、背後のスペースに対する判断は凄かった。予測と身体能力の高さもあって、守備範囲の広さは飛び抜けていましたね」
松永の熱心な指導によって、朴は29歳ながらグングンと上達していく。飯倉に代わってゴールマウスを守るようになると、松永は試合の映像を朴に見せながらマンツーマンでディテールを修正。課題をトレーニングに落とし込んで克服していく作業を、1シーズン通して行なっている。
「安心してパギのプレーを見ることができたのは、最終節のひとつ手前の川崎フロンターレ戦。戦術の落とし込みを含めて身につけさせるには、やっぱり時間と労力が要りましたね。ある意味、犠牲を払いながらアンジェの戦術に適応しなきゃいけないんで、ウチのGKは最初どうしても悩むし、苦労する。ビルドアップやハイラインでああしなきゃいけない、こうしなきゃいけないというのがあって、頭がそればかりになると自分の本来のストロングポイントを忘れてしまいがち。でもそこを超えてくると自信が出てきて、すべてのプレーが良くなるんです」
朴の貢献もあって、チームは15年ぶりのリーグ制覇を果たす。日産時代に多くのタイトルを手にしてきたが、選手、指導者として長年在籍したF・マリノスでは初めて。歓喜の日産スタジアムで男泣きした。
「あの雰囲気が僕はたまらなく好きでした」
ボスから労いの言葉を掛けられたことは記憶にないという。微妙な関係性を想像しがちだが、まったくそうではない。松永を認めていたからこそ、ボスは朴を起用できたと言える。松永もまた3歳下の指揮官へのリスペクトを一層、強めていた。