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“妥協しない男”ポステコグルーの問いに徹夜で答えを…松永成立が証言する“横浜F・マリノスのGK革命”「アンジェはリスクなんて言葉を使わない」
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byEtsuo Hara/Getty Images
posted2024/02/12 11:04
2019年、優勝シャーレを掲げる横浜F・マリノスの松永成立GKコーチ。アタッキングフットボールで大きな役割を担うGK陣を鍛え上げた
「シゲ、どう思うんだ」明確な答えを求めた指揮官
ただ、ボス体制に移行した直後はそんな悠長なことを言っていられなかった。ハイライン&ハイプレスのアタッキングフットボールを実現するにあたり、GKに求められる役割が増えた。ハイラインの裏にある広大なスペースをカバーし、ビルドアップでも高い位置を取って、出発点にも経由地にもなる。つまりセービング、ポジショニング、クロス対応といったGKの基本スペックのみならず、単に「足もとの技術」というニュアンスを超えた攻撃センスや、広範囲という表現では収まらないカバー能力を求められたからだ。
日産自動車時代がハイラインだったためイメージを掴むことはできたものの、厄介なのは監督が正解を言おうとしないことだった。
練習試合の翌日にはスタッフ全員が集められてフィードバック作業が細かく実施され、GKのポジショニングやプレーなども検証された。修正を重ねながら2018年シーズンの開幕を迎えて、試合があるたびにボスは質問という形で松永に迫ってきた。
「やっぱり特殊な戦術を取っているんで、アンジェはGKに対して一つひとつのプレーにうるさい。なぜここのポジションにいるんだ、なぜ頭を越されるんだ、なぜこのタイミングでパスを出すんだ、みたいに。彼のなかではおそらく答えがあるのに、それを言わないわけですよ。なぜ、の後に“シゲ、どう思うんだ”と。
アンジェは曖昧な答えを何よりも嫌うので、たとえば試合を夜9時に終えて深夜に自宅に戻っても、そこから試合の映像を必ずチェックして“GKのこういう判断でこういったプレーになった”ということを頭のなかで整理したうえで、何を聞かれてもいいようにしておきます。徹夜になってしまったときもありましたよ。彼の質問に対してすべて答えられるよう準備しておけば、自分の頭も整理できるし、トレーニングのアイデアも浮かぶ。すると必然的にコーチングの質も上がっていく。大変な作業ではあるんだけど、それはアンジェもほかのスタッフも一緒。それくらいきっちり仕事をやりたい人なんだって思うと、リスペクトする気持ちが強くなっていきましたね」
守備時、ボールの位置によってどのポジションを取っていることが多いのか、映像で調べて最適解だと思われる位置を割り出していく。ビルドアップ時のポジショニングもそうだ。時間という時間を費やした。決してアバウトにはせず、シチュエーションによって細かく設定できるまでになった。GKにも映像で示しつつ、じっくりと落とし込むことが可能になった。