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井上尚弥のエグい左でタパレスの顔面が歪み…“中継では伝わらない決定的瞬間”を捉えたカメラマンの証言「苦戦という印象はまったくない」
text by
福田直樹Naoki Fukuda
photograph byNaoki Fukuda
posted2023/12/30 17:04
マーロン・タパレス戦の井上尚弥はどう「超人的」だったのか? カメラマンの福田直樹氏が、撮影者の視点から4団体統一戦を振り返る
相手が「井上尚弥」でなければ…
井上選手がすごいのは、焦れる展開でもさまざまな引き出しを駆使して、的確にポイントを重ねられるところです。多種多様なフェイントを織り交ぜながら、ときにはガードを下げるなどしてうまく相手を誘い込む。多少の攻めにくさはあったかと思いますが、ペースはまったく奪われていませんでしたし、最後まで顔は綺麗なままでしたね。試合を通してまともに被弾したパンチは、右フックを2、3回と左を2回、ジャブも2、3回と、本当に数えるほどだったように思います。
4ラウンドでダウンを奪ったときは、次のラウンドでの決着を予感しました。しかし、タパレス選手はここからの粘りが見事でしたね。少し重心を前にして勝負に出たことで、ブロックの技術、体の使い方やポジション、パンチの合わせ方にタイミングと、そのスキルがより引き出されたように感じました。
いくつか強烈なボディも浴びていましたが、よくこらえていましたね。さすがは2団体王者というか、ムロジョン・アフマダリエフに勝利したのは決してフロックではないな、と。仕上がりのよさを感じさせましたし、相手が「井上尚弥」でなければ、窮地に追い込むシーンも生まれたのかもしれません。
「苦戦」という印象はまったくない
それでもやはり、井上選手が勝利を脅かされるレベルではなかった。試合後、「苦戦」といったニュアンスの記事もいくつか出ていたようですが、個人的にはまったくそうは思いません。ポイント的にもほぼフルマークですし、結果的に10ラウンドでKOですからね。試合後の両者の顔を見比べればわかるように、間違いなく完勝でしょう。体もこのクラスに馴染んできていて、いわゆる「階級の壁」も感じませんでした。
ポール・バトラー戦(バンタム級4団体統一戦)と同じように、世界クラスの相手が引いてきた展開でも判定までいかないというのがすごい。超人的な倒し方でないと物足りないと感じられるのかもしれませんが、あらためて見返すと最後のシーンはかなり強烈でした。
まず、ワンツーをリング中央でブロックした相手がよろめく。井上選手はリズムを作って間合いを測り直し、今度は数センチだけグローブの内側に入るように再びワンツーを打ち込む。タパレス選手は微妙に目測を誤り、右ストレートをテンプルにもらって崩れ落ちる……。クリーンな当たり方ではなかったかもしれませんが、それまでのダメージの蓄積もあったのでしょう。ブロックしていたとはいえ、ガードの上からでも効くパンチですからね。