炎の一筆入魂BACK NUMBER
《FA宣言の真意》「僕の野球が通用するのか」“天才”打者・西川龍馬は打撃道を極めるためパ・リーグの猛者に挑む
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byJIJI PRESS
posted2023/11/20 11:00
マツダスタジアムの会見で、FA権行使の理由を語った西川
打者としてどこか、満たされたものを感じたのかもしれない。認められた打者となっても、さらに高みを目指すために環境の変化を求める自分がいた。
敦賀気比高から大学進学ではなく、社会人・王子へ進んだのもそうだった。
「(大学では)甘えてしまうと思った。自分で稼ぎながら野球をやろうと思った」
厳しい環境に身を置いて、自身を高めてきた。答えのない打撃を追い求めることこそが、西川の野球人としての生き方なのだ。
バットを握り、打撃道を追い求める表の姿とは違い、ユニホームを脱げば人間味あふれる関西のお兄ちゃんだ。
冒頭のFA権行使のテレビ取材、新聞記者の囲み取材を終えた去り際、緊張の糸が緩んだのか、近くにいた記者につぶやいた。
「決めたものの、意外と寂しいものですよ。ホンマに」
ふと漏らした言葉に、西川の素顔が垣間見えた。
愛着と挑戦のせめぎ合い
4人きょうだいの長男で責任感も強い。クールな立ち居振る舞いから孤高のイメージもあるが、後輩思いで遠征先ではよく食事に誘う。
CSファイナルステージ2戦目に敗れた10月19日の夜は、末包昇大に声をかけた。
失点につながる守備のミスをした後輩は、西川からのLINEの誘いに一度は断りのメッセージを送っていた。敗戦の責任の重さをベッドに沈めるように横たわり、そのまま朝を迎えるつもりだった。
そんな後輩の部屋の扉をたたき、外へ連れ出して言った。
「負けたのは俺のせい。俺が打てなかったから、負けた」
後輩の傷を励ます意味もあったかもしれないが、バットで後輩のミスをカバーできなかった自責の念にかられていたのも事実だった。
後輩だけでなく、8年間ともに戦ったチームメートへの情も深まり、チームへの愛着も強かった。だから、選手には誰にも相談しなかった。ひとりの人間として決断するのではなく、ひとりの野球人として決断したのだ。
「僕の野球が、通用するのか」
挑戦心を掻き立てられ、進むべき道を決めた。佐々木朗希(ロッテ)を筆頭とした猛者
が待つ舞台。答えのない、打撃道を追い求めていく。