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「僕が出るところなんてない」侍ジャパン不選出の広島・西川龍馬が、WBCに微塵も未練を見せない理由《吉田の後輩、誠也と同学年、近藤は自主トレ仲間》
posted2023/02/17 17:01
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
JIJI PRESS
飄々と、淡々と、そしてクールに。春季キャンプに臨む広島・西川龍馬の姿は、いつもと変わらないように映る。キャンプイン目前の1月26日、WBCに向けて発表された侍ジャパンのメンバーに、西川の名はなかった。
昨年、栗山英樹監督の初陣となった強化試合で日本代表に選出され、2試合にスタメン出場。7打数2安打で存在感を示した。
プロで初めて日の丸を背負った2017年のアジアプロ野球チャンピオンシップでは全3試合に出場。今回日本代表入りしたソフトバンク近藤健介(当時日本ハム)の打率.583を上回る.636をマークし、三塁手としてベストナインにも選ばれた。
広島でも昨季は規定打席未到達ながら打率.315を残し、通算打率.298の打撃技術は誰もが認めるところ。新井貴浩新体制となる今季も、キーマンのひとりに挙げられる。それでも、代表選考から漏れた。だが本人に感情の動きは驚くほどない。
「あのメンツに割って入ろうなんて思わない。実力がまだ伴っていない。ハナから選ばれるとは思っていなかった。メンバー見たら、僕が出るところなんてない」
清々しいほどに、強がりも悔しさも感じられない。思えば昨年から、WBCへの思いを聞いても、いつもそんな調子だった。「ワンチャンあれば」と答えたのも、前向きなコメントを求めるような空気を察してのことだった。
誰よりも日本代表の外野陣を知る男
30人という登録枠に選ばれた顔ぶれを見れば、納得せざるを得なかった。サプライズだったラーズ・ヌートバー(カージナルス)を除けば、選ばれた外野陣の凄みを誰よりも知っているからだ。
レッドソックスへ移籍した吉田正尚は敦賀気比高の1学年上の先輩で、アマチュア時代に背中を追い続けた。カブス鈴木誠也はプロ入りした広島でチームメートとなり、打者として互いに認め合う同学年。2017年の日本代表でチームメートとなった近藤とは、2019年1月から毎年のように合同自主トレを行い、打撃論を交わしてきた。
「誠也はパワーあるし、正尚さんはアベレージも長打もある。コンさんはコンスタントに打てる。バランスがいいし、おもしろいと思う」
まるで一評論家のように、冷静に日本代表を見ている。世界の舞台に臨む球友たちの活躍を祈りつつ、気持ちはすでに自分との戦いに向いている。