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14歳の藤井聡太に「将棋を教えてほしい」…永瀬拓矢24歳が八冠“最後の砦”となるまで「プライドや意地はこの世でいちばんいらない」

posted2023/10/21 06:00

 
14歳の藤井聡太に「将棋を教えてほしい」…永瀬拓矢24歳が八冠“最後の砦”となるまで「プライドや意地はこの世でいちばんいらない」<Number Web> photograph by Keiji Ishikawa

八冠誕生となった直後、藤井聡太と感想戦を行う永瀬拓矢。最後の一冠をめぐって戦った2人の物語は6年以上前から始まっていた

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大川慎太郎

大川慎太郎Shintaro Okawa

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Keiji Ishikawa

 10月11日、将棋界の全タイトル八冠を手中に収めた藤井聡太。その瞬間、盤を挟んで向かい合っていたのが永瀬拓矢王座だった。最後の砦となって立ちはだかった31歳は10歳年下の八冠への尊敬を隠さない。2人はどのように出会い、切磋琢磨してきたのか。その軌跡を観戦記者が振り返る。(全2回の第1回/後編は#2へ)

対局日の夜がいちばんありがたいです

 いつ頃からだろう。永瀬拓矢の取材を対局日の夜にするようになったのは。

 棋士は本当に忙しくなった。いちばんの理由は将棋AIによる序盤研究で勉強時間が増大したことだ。オフを削ってパソコンに向かう者も増えており、研究合戦はピークに達しているようにも映る。「今は将棋が趣味じゃないと生き残れないと思う」と語ったのは、多趣味で有名な佐々木勇気だ(そう語る彼もトップのA級棋士なのだが)。だから棋士への後日取材のタイミングも気を遣う。大きな負担になってはいけない。

 ある時、永瀬と取材方法について相談した際に「対局日の夜に電話をいただくのがいちばんありがたいです」と言われた。全力を出し切ったあとで疲れているだろうから意外だったが、「(対局後は頭が冴えて眠れず)起きているので」ということだった。終わったばかりなので記憶が鮮明だし、話が異様に生々しいので記者としてはありがたい。

対局が終わればノーサイド

 タイトル戦だと、打ち上げが終わったであろうタイミングで永瀬にメールを出す。すると「〇時はいかがでしょうか」という返事があり、その時間に電話をかける。「対局が終わればノーサイド」という永瀬は負けた後でも態度は変わらない。将棋にすべてを懸けている永瀬の言葉の強度はすごいものがあり、話を聞きながら背筋が伸びたことが何度もある。

 永瀬がどんなことを考え、日々を送っているのか。そして最も尊敬しているという藤井聡太とはどういう関係を刻み、影響を受けてきたのか。永瀬から取材で聞いた話などを通じて、藤井との初めての出会いがあった2017年から、藤井が八冠制覇を成し遂げた王座戦の前までの印象的なシーンを振り返ってみたい。永瀬拓矢という「将棋の鬼」の新たな輪郭が浮かび上がれば幸いである。

「七番勝負」14歳の天才が唯一敗れた男

 永瀬が藤井と初めて会ったのは、2017年にABEMAで放送された「藤井聡太四段 炎の七番勝負」である。最年少棋士の記録を更新した14歳の少年に寄せられる期待はあまりに大きく、用意されていたのは破格の舞台だった。羽生善治らトップ棋士を相手に6勝1敗という好成績を残して大きくアピールしたのだが、唯一土をつけたのが当時六段の永瀬だった。

 永瀬は勝ったにも関わらず、14歳の少年に衝撃を受けていた。

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