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将棋PRESSBACK NUMBER
14歳の藤井聡太に「将棋を教えてほしい」…永瀬拓矢24歳が八冠“最後の砦”となるまで「プライドや意地はこの世でいちばんいらない」
text by
大川慎太郎Shintaro Okawa
photograph byKeiji Ishikawa
posted2023/10/21 06:00
八冠誕生となった直後、藤井聡太と感想戦を行う永瀬拓矢。最後の一冠をめぐって戦った2人の物語は6年以上前から始まっていた
両者の練習将棋の総対局数や勝敗などの詳細は明らかにされていない。断片的に聞いたのは「最初の10局は自分が圧倒したが、次第に追い抜かされた」「大体3勝7敗ぐらいになることが多い」「10連勝してもまったく緩むことがないので藤井さんはカライ(笑)」といった永瀬の発言である。
才能はいらない。努力がすべて
それでもタイトル獲得は永瀬のほうが先だった。2019年に叡王戦で髙見泰地をストレートで破って初戴冠を果たしたのだ。この時、私は専門誌で永瀬にロングインタビューをした。4連勝で制したシリーズのことを一局一局丁寧に話してもらった。最後に尋ねたのは、有名な永瀬語録についてだった。「将棋に才能はいらない。努力がすべて」はタイトルを獲得した今でもそう思っているのか、と。すると永瀬は「その思いはより強くなった」と力を込め、以下の言葉を続けたのである。
「本当は努力と感謝の2つを交えた言葉があればいちばん意味が近いのですが……。自分は将棋しかできないですし、将棋があるからこそ自分がある。だから将棋には本当に感謝しているんです。努力という言葉だと責任感や義務感みたいなものが少なからず生じるでしょう。でも自分にとって将棋はそういう存在ではない。すべてを与えてもらっているんです。今後も努力と感謝を大切にして、奥が深すぎる将棋を少しでも理解したうえで皆さんにお見せしたいですね」
永瀬「二冠」の一方…藤井の苦境
永瀬はその秋には王座戦五番勝負で斎藤慎太郎にストレート勝ちをし、自身初の二冠に輝いた。一気にスターダムにのし上がったのだ。
ちょうどその年の秋、藤井聡太は王将リーグで勝てば挑戦決定という大一番に臨んでいた。だが「底知れないポテンシャルを秘める男」である広瀬章人に終盤で逆転負けを喫した。玉の逃げ方を間違え、詰まされてしまったのである。
<続く>