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14歳の藤井聡太に「将棋を教えてほしい」…永瀬拓矢24歳が八冠“最後の砦”となるまで「プライドや意地はこの世でいちばんいらない」 

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大川慎太郎

大川慎太郎Shintaro Okawa

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photograph byKeiji Ishikawa

posted2023/10/21 06:00

14歳の藤井聡太に「将棋を教えてほしい」…永瀬拓矢24歳が八冠“最後の砦”となるまで「プライドや意地はこの世でいちばんいらない」<Number Web> photograph by Keiji Ishikawa

八冠誕生となった直後、藤井聡太と感想戦を行う永瀬拓矢。最後の一冠をめぐって戦った2人の物語は6年以上前から始まっていた

「藤井さんは序盤から時間をたっぷり使って考え続けました。急所の終盤戦に時間を残すのが普通なのに、当時14歳という若さにも関わらず一切、妥協する姿を見せなかったんです」

「もっと指したい」藤井に練習将棋を申し込む

 永瀬は藤井と「もっと指したい」と強く思った。そしてある棋士から藤井のメールアドレスを入手し、練習将棋を申し込んだ。藤井も快諾し、2017年のゴールデンウィークに2人は盤を挟むことになった。以来、2人は公式戦で対戦する前後のみ練習将棋を中断し、それ以外は切磋琢磨を続けてきた。「持ち時間が双方30分なので1時間半から2時間以内に終わるのが普通ですが、3時間以上かかったこともありました」と永瀬は言う。いつ終わるとも果てないラリーが続くというのだ。

 この話を永瀬から聞いていた私は、藤井にとって最後の一冠となった王座戦五番勝負の第2局を盤側で観戦した際に、なぜだか2人の練習将棋の様子が思い浮かんだ。「こりゃあ、2人とも強くなるはずだわ」という感嘆とともに。敗勢の永瀬は決してあきらめることなく入玉を目指し、総手数は214手もかかったのだ。

自分はチャンスをつかみに行こうとする性格

 永瀬と藤井の棋士人生に大きな影響を与えた「炎の七番勝負」だが、実は永瀬は当初は出場予定ではなかった。ある棋士が断ったため、永瀬に依頼が回ってきたのだという。なんという運命の悪戯だろう。

「自分はチャンスをつかみに行こうとする性格なんです。プライドや意地はこの世でいちばんいらないものだと思っていますので」と永瀬は語る。

「最初は圧倒」「大体3勝7敗くらい」「10連勝」

 だから当時、タイトル戦出場経験があって格上だった永瀬が藤井に「将棋を教えてほしい」とお願いし、10歳下の藤井が居住する愛知県に自ら出向いたのだ。

「自分だって20代前半くらいの時はプライドはあったと思うので、そういう人の気持ちもわかるんですよ。でも時代は常に変わっていくので、自分も変わらなきゃいけない。棋士はプライドと意地がある人のほうが多い気がしますが、藤井さんにはそういうものはない気がするんです。将棋を勉強するうえで関係ないことはそぎ落としていくタイプだと思うんですよね」

【次ページ】 才能はいらない。努力がすべて

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