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誰よりも藤井聡太と指してきた男、永瀬拓矢が明かしていた「藤井さんの実力が爆発した瞬間」「あれぐらいの不利は終盤で跳ね返してくる」

posted2023/10/21 06:01

 
誰よりも藤井聡太と指してきた男、永瀬拓矢が明かしていた「藤井さんの実力が爆発した瞬間」「あれぐらいの不利は終盤で跳ね返してくる」<Number Web> photograph by Sankei Shimbun

2022年の棋聖戦での番勝負でも戦った藤井と永瀬。快進撃を続ける藤井の“妙手”を永瀬は「特別すごいとは思いませんでした」と冷静に見ていた

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大川慎太郎

大川慎太郎Shintaro Okawa

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Sankei Shimbun

 10月11日、将棋界の全タイトル八冠を手中に収めた藤井聡太。その瞬間、盤を挟んで向かい合っていたのが永瀬拓矢王座だった。最後の砦となって立ちはだかった31歳は10歳年下の八冠を尊敬してやまない。6年以上にわたって一緒に練習を行ってきた2人はどのように切磋琢磨し、頂上決戦で競いあったか。その軌跡を観戦記者が振り返る。(全2回の第2回/前編は#1へ)

永瀬が語る、藤井の「充電期間」

 最年少記録を次々と更新してきた藤井だが、初めて暗雲が漂った。2020年7月中にタイトルを獲得しないと、屋敷伸之の持つ最年少タイトル獲得記録を更新できない。だが、藤井がこの夏に棋聖と王位の二冠を獲得し、第2次藤井ブームを起こしたことはご存じの通りである。2020年の4、5月はコロナ禍で最初の緊急事態宣言が発出されており、名古屋在住の藤井は遠征ができずに対局がストップ。6月になって宣言が明け、藤井は棋聖戦の準決勝と挑戦者決定戦に勝利してタイトル戦出場を決めた。挑決の相手だった永瀬は、この時期の藤井について次のように語っている。

「タイトルを獲ったのは自分が先でした。だから藤井さんにも伸びていない時期があったという理屈になります。それを私は『充電期間』と言ってます。2020年の春にコロナの影響で対局が止まり、再開されると藤井さんの実力が爆発しました。初タイトル獲得もその時でしたよね。充電したものを外に出す術を自粛期間に身につけたのでしょうね。自分も現状維持ぐらいはできたんですけど、格段に強くなることはできませんでした。もしも同じことが起こったら、今度は自分もうまくやりたい。でも藤井さんは何事も一回目でうまくやってしまうんです。頭がいいんでしょうね」

藤井の妙手に「特別すごいとは思いませんでした」

 藤井の二冠奪取はあまりに鮮烈で、内容も怪物級だった。棋聖戦第1局の▲1三角成、第2局の△3一銀など、どの将棋でも妙手を連発。これだけ具体的な符号が浮かぶ将棋を指せるのは藤井ならではだ。多くの棋士が藤井の将棋の内容に仰天して称えていたが、永瀬はそうではなかった(もう一人、師匠の杉本昌隆もそうだった)。

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