- #1
- #2
甲子園の風BACK NUMBER
「パワーじゃ勝てんのじゃけぇ」“佐々木麟太郎外し”に3連続バント…高校日本代表を世界一に導いた馬淵史郎の信念「わしゃ、アルミは好かん」
posted2023/10/04 17:02
text by
安藤嘉浩Yoshihiro Ando
photograph by
JIJI PRESS
2023年9月、野球のU-18ワールドカップで高校日本代表(侍ジャパンU-18代表)を世界一に導いた明徳義塾の馬淵史郎監督。世代屈指のスラッガーをメンバーに選出しなかったことや、決勝戦で見せた3連続バントには、「打てなくても勝てる野球」を目指す“馬渕イズム”がにじみ出ていた。低反発バットの導入を来春に控えた今、あらためて注目を集める名将の野球哲学とは。人間味あふれる発言の数々から、その本質を紐解いていく。(全2回の2回目/前編へ)
“佐々木麟太郎外し”に見た監督としての信念
馬淵史郎、67歳。教え子たちからは「監督、ずいぶん丸くなりましたね」と言われることが増えた。「そら、わしかてトシもとるで」と笑うが、その勝負勘、徹底力は変わらない。
監督として大切なことはなにか。こんなことをよく語っていた。
「どんだけ腹をくくれるかよ。サインを出すとき、迷ったらアカン。監督が迷ったら、選手が不安になる。失敗したら、サインを出した監督の責任よ」
U-18ワールドカップ決勝の台湾戦で敢行した3連続バントによる逆転劇は、ベンチの監督が腹をくくった結果とも言えるだろう。
そもそも、選手選考から、馬淵野球は始まっていた。
昨年、初めて高校日本代表チームを率いてU-18ワールドカップを戦った後、馬淵監督はこう話した。
「改めて日本の勝機は、投手を中心とした守りと走力を最大限活かした緻密な野球の実践にあると実感した」
分析をもとに方針を決めたら、あとは前を向いて自分を信じて突き進む。絶対にぶれない強さが、この人にはある。
高校通算140本塁打の花巻東(岩手)の佐々木麟太郎や、広陵(広島)の真鍋慧といったパワーヒッターをメンバーに入れなかった。彼らを推薦する声も、選手選考の過程ではあったと聞くが、監督としての信念を貫いた。
「世界を相手に打ち勝つのは難しい。打てなくても勝てる野球を目指す。野球はホームを多く踏んだ方が勝ち。パワーじゃ勝てんのじゃけぇ」