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マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
「タイガースはあいつに懸けてくれたんです」2016年《悲鳴のドラフト1位》大山悠輔“虎の主砲”の大学恩師が語った「ドラ1指名“ホントの理由”」
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byHideki Sugiyama
posted2023/09/25 17:01
2016年のドラフト時には1位指名にファンから驚きの声も挙がった阪神・大山悠輔。いまではチームの不動の4番に座る
白鴎大の4年間、ずっとサードを守ってクリーンアップを打ち、通算16本塁打。4年生春のリーグ戦では打率.417で、リーグ記録の8本塁打をマークしたが、惜しくも全国の舞台は逃していた。
4年の夏には、日米大学野球選手権のジャパンメンバーにも選ばれて、4番三塁手として奮戦したが、自身の打撃成績は15打数2安打。強烈なアピールには及ばなかった。
阪神が渇望していた打線の核になる「スラッガー」
当時の阪神のチーム事情はどうだったのか。
投手陣も盤石というわけではなかったが、それ以上に打線の核となれるようなスラッガータイプの打者に困窮していた。
ペナントレースの多くの試合で4番をつとめた福留孝介外野手は、この年すでに39歳。外国人のゴメスが22弾、福留と原口文仁の11弾以外、ふた桁本塁打をマークした選手はいなかった。攻撃型野球を目指す金本知憲監督としても、近未来にクリーンアップの一角を託せる長距離砲を渇望していると聞いていた。
「やっぱりそうだったでしょ。上位で指名された野手って、1位で巨人の吉川(尚輝・遊撃手・中京学院大)、2位で京田(陽太・遊撃手・日本大)に、3位で立教の外野手(田中和基・楽天)。みんな、好打者タイプじゃないですか。スラッガータイプは、大山だけだったんですよ。大山の後、3人続けてピッチャー(2位・小野泰己、3位・才木浩人、4位・浜地真澄)でいってるでしょ、保険的な選手も獲ってない。タイガースはあいつに懸けてくれたんですよ。ありがたいじゃないですか。今度はあいつが恩返しする番なんです、命がけでね」
ドラフトの少し後で、黒宮監督が涙目になって、そう語っていた。いや、ほぼ叫んでいた。
おそらくあの時、あの会場で深いため息をついた阪神ファンたちも今は球場で、また映像の前で、大山悠輔選手の一挙手一投足に大きな歓声を上げていることだろう。
ドラフトを巡るファンと選手の関係なんて、そうしたものであって、それでよいと思う。それは選手たちが努力に努力を重ね、ファンの期待の数百倍も数千倍も成長した証しなのだから。
(「2018年、近本ドラフト編」へ続く)