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「選手もこれじゃダメだって気づきます」前日本代表HC・平井伯昌が語る“競泳ニッポンの窮状”「世界のトップを目指す“方法論”がない」
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byNumber Web
posted2023/08/23 06:05
取材に応じる平井氏。東京五輪まで競泳日本代表のヘッドコーチを務めた平井氏は、これまでの経験と危機感から現状の問題点を明かす
平井氏が危惧していた通りの現状
平井氏も1972年ミュンヘンオリンピックに向けた小柳清志ヘッドコーチの綿密な強化計画に感銘を受け、そこに前任者たちの知見を加え、自分なりにアップデートしながら選手育成に携わってきた。知恵を絞り、多くの人の力を結集することで、専用プールすらなかった時代からいくつもの金メダルを取れる環境を築いてきた。
「誰かがやめたら何もできないという状況になっちゃまずい。ずっとそう考えて競泳委員会の運営をしてきたつもりだし、連盟にも関わってきたつもりなんだけど……」
しかし、実際には平井氏が危惧していた通りになっている。変化する時代に対応し、アイデアを捻り出しながらそれを形にしていく。競泳ニッポンを育て上げた先達の背中を、平井氏たちの姿を、周りにいた人間はどこまで見ていたのか。
「いやあ、こうなってくると見えてなかったのかなあと思いますよね。ユリウス・カエサルの言葉に『人は見たいと欲する現実しか見ない』ってあるんです。でも『為政者は見たくないものまで見なくちゃいけない』のです。大きく反省し、イチから出直す気持ちで始めなくてはいけないタイミングなのかもしれない」
平井氏はそう言って力なく笑った。
パリ五輪まであと1年。その現実すら直視できないようでは、パリ五輪でのメダル獲得という「見たい現実」も遠のいていく。これから競泳ニッポンはどう変わっていくのか。
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