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「体操教室で靴飛ばしも…」佐藤弘道が実践する“負ける子を作らない”教育法…40代で大学院へ、“体操のお兄さん”のセカンドキャリアが凄かった
text by
音部美穂Miho Otobe
photograph byShiro Miyake
posted2023/08/25 11:03
元・体操のお兄さんとして現在も体操指導などの活動を続ける佐藤弘道さん。「おかあさんといっしょ」初出演から、今年で30周年
なぜ40代になってから大学院に進学した?
――40歳を過ぎてから弘前大学大学院医学研究科に入り、親子体操を研究したのは、この体操の効果を確かめたいという思いからだったのですか?
弘道さん それが……大学院に行くとは思ってもいませんでした。弘前大学の中路重之先生が、青森県で親子体操講座をやったときに見に来てくださっていたそうで、共通の知人をたどって声をかけてくれたんです。
お会いしてみたら、「君が親子体操を本気でやっていくなら、うちで研究してきちんとデータを作りなさい」と言われ、大学院入学の書類を手渡された(笑)。でも、僕は学部卒なので修士号も持っていない。それで、2年間は研究生として勉強し、その後4年間博士課程で研究しました。
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――大学院の同期にはアーチェリーの五輪メダリストで「中年の星」と呼ばれた山本博さんもいたそうですね。
弘道さん どうやら、発信力の高い人を大学院で研究させることで、県民の方々への啓発活動につなげたいという狙いがあったそうです。というのは、青森県は全国で一番平均寿命が短く、中路先生は健康社会学の専門家として、“短命県”を脱するためにいろいろ施策を講じてきたそうなんですよ。
でも、大学の先生方が健康講座を開いて「タバコはダメ、お酒も塩分も控えめに」と訴えても、ちょっと煙たがられちゃうらしくて。オリンピアンやアスリートが「僕らは健康を意識して生活習慣を整えてきて、結果を残してきました。みなさんも、生活習慣を改善しましょう!」って言ったほうが受け入れてもらいやすいそうなんです。
弘前大学とのお付き合いは博士課程を修了後も続いていて、今も親子体操普及員を育てるための講座を持たせてもらっているんですよ。
研究結果「親子体操は親にも健康効果がある」
――どのように研究を進めたんですか?
弘道さん 最終的に88組の親子に親子体操を実践してもらい、半年間の追跡調査をしました。体力測定の結果、子どもの運動能力がどんどん上がっていったんですよ。
面白いのは、親にも健康効果があるということ。親御さんにも血液を提供してもらって追跡調査を行ったところ、体脂肪率が下がったり、血圧が安定し、筋力が上がり、睡眠の質も向上していることが分かった。子育てのストレス度が下がって抑うつ度も減少するなど精神面でも良い影響が見られたんです。ライフワークとして続けてきた親子体操の効果がデータで証明されたのは、嬉しかったですね。