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大谷翔平“トレード消えた”本当の意味「あのケチなオーナーが…」「FA移籍すればすべて裏目に」それはエンゼルス史上最大の“博打”だった
text by
水次祥子Shoko Mizutsugi
photograph byGetty Images
posted2023/08/02 06:00
エンゼルスのオーナー、アート・モレノと大谷翔平。トレード消滅は「賭け」だった…。
「あのケチなオーナーが…」現地驚きの理由
モレノ・オーナーといえばぜいたく税は決して超えない方針を貫き通し、マイク・トラウトのようなスーパースターには大金を注ぎ込むがその他の補強には出費を渋ることで知られてきた。そのためトラウトがデビューしてからの12年でポストシーズンに進出できたのは2014年の1度だけ。地元ファンやメディアから「うわべだけ」「ケチ」と批判されてきた。2003年5月にエンゼルスを買い取り、その翌年の球団運営初年度にもぜいたく税回避の上限を超えているが、当時は前経営者が契約した選手の多くが残る過渡期であり、ぜいたく税制度も導入されたばかりで上限金額も今季の約半分だったことを考えると、今回の上限突破は同オーナーにとっては初めてといっていいレベルの、球団の命運をかけた思い切った決断だった。
批判の声「未来を犠牲にしている」
しかも大谷がFAとなって他球団に移籍すれば、今回の決断がすべて裏目に出る。エンゼルスのファームの層はただでさえ薄く、今季開幕時のMLB公式サイトのランキングでメジャー30球団中28位だった。大谷トレード封印決定後にトレードで補強した4選手と交換で放出したマイナー選手は、球団2、3、8、28位にランク付けされていた有望株で、薄かったファームがさらにスカスカとなった。その状態で大谷がFAで出て行き、30代に入ってケガしがちのトラウトが全盛期から下り坂になり、チームを再建しようにも有望な若手はいないとなれば、すぐ先の球団の未来には暗黒のイメージしか浮かばない。
それについて地元紙ロサンゼルス・タイムズのコラムニスト、ビル・プラシュキー氏は7月28日付の記事でこう批判した。
「オオタニがFA後もチームに残る可能性はほぼない。エンゼルスはこれまでも同じことをやってきた。未来を犠牲にしてスーパースターと下手くそなダンスを踊り、最終的には惨めな敗北者となる。モレノはビッグネームのスターにビッグマネーをつぎ込むが、その結末はいつも、彼の手元に何も残らない」
ワンマン経営者「モレノ」とは?
この8月で77歳になるモレノ・オーナーは、一代でたたき上げた実業家で最近の米野球界ではほとんど見かけなくなったワンマン経営者だ。従業員からは恐れられファンからは批判とブーイングを浴びるが、どんな状況でも我が道を突き進むタイプ。この12年間でGMを4人替え、この5年間で監督を4人替えたのもそのワンマンさゆえだ。球団の命運をかけたギャンブルができるのも、そのためだ。