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大谷翔平“トレード消えた”本当の意味「あのケチなオーナーが…」「FA移籍すればすべて裏目に」それはエンゼルス史上最大の“博打”だった
text by
水次祥子Shoko Mizutsugi
photograph byGetty Images
posted2023/08/02 06:00
エンゼルスのオーナー、アート・モレノと大谷翔平。トレード消滅は「賭け」だった…。
モレノ・オーナーはマスコミ嫌いとしても知られめったに表に出てこないが、今年3月に実に3年ぶりに地元ロサンゼルスメディアの番記者たちの取材に応じ、大谷の去就について話している。
「契約はビジネスだ。我々は話し合いの席を持つことになる。オオタニ自身がここにいたいと思わなければ契約は実現しない。双方向の思いがなければならない。マイク・トラウトのときと同じだ。私はマイクと話すことに多くの時間を費やした。私はマイクにこう言った。決めるのは君自身だとね」
この言葉をそのまま受け取るとすれば、モレノ・オーナーはこの時点で大谷が来季以降も残留してくれるという確信は特になく、出たとこ勝負で交渉のテーブルに着くつもりだろう。シーズン後の残留交渉は成功するかどうかわからない、まさに賭けだ。
球団売却をやめた…裏に「オオタニの存在」
この賭けに至る前、モレノ・オーナーは昨年8月に球団を売却すると発表し、売却寸前まで話が進んだが、今年1月になって突然、売却を取りやめている。「複数のオファーのうちの3件は、MLB史上最高額となった2020年のメッツの売却額24億ドルを超えていた」とも明かした。そのオファーは予想をはるかに超える金額であり、多くの米メディアは「今やメジャー最高の選手となったショウヘイ・オオタニの存在が球団の価値を高めている」と分析していた。
そんな文句なしの売却チャンスを捨ててまで、エンゼルスの保有を決断したのはなぜか。恐らく同オーナーは、この時点でもう夏のトレード期限で大谷を放出しないことを決めていたのではないだろうか。球団売却のプロセスの中で大谷の存在がいかに球団の価値を高めているかを実感していたならば、大谷のいない球団の価値がどれだけ下がるのかもわかっているはずだ。大谷がいなくなることを想定して球団を持ち続けようとしたとは考えにくい。
大谷FA残留は「残りのシーズン」次第…
大谷トレードを封印したとき、エンゼルスは52勝49敗でア・リーグ西地区3位。ワイルドカード争いでは、ポストシーズンに進出できる3位まで4ゲーム差の6位だった。ペナント争いに残れるかどうか、かなり微妙な位置といっていい。それでも「勝ちたい」と言い続けている大谷をFAで引き留めるには、何が何でもペナント争いを制しなければならない。残りのシーズンでどんなに厳しい状況になっても、戦いをやめるわけにはいかない。モレノ・オーナーによる覚悟の、危うくリスキーなギャンブルはこうして仕掛けられた。
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