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ボクシングPRESSBACK NUMBER
「かなりショックだったのでは…」井上尚弥はフルトンの“奇策”をどう打ち破った? 元世界王者・飯田覚士が分析「一番驚いたのは本人のはず」
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byTakuya Sugiyama
posted2023/07/28 17:02
スーパーバンタム級最強の呼び声が高かった王者フルトンに完勝した井上尚弥。フルトンが仕掛けた奇策に井上はどう対応したのか。元世界王者の飯田覚士が徹底分析した
さすがのフルトンも、井上の作戦には面食らったに違いなかった。それでも井上のエネルギッシュな強打をしのぎつつ、何とか勝ち筋を見つけようとしていた。しかしながら、戦いながら現状や想定を超えていくのがモンスターと呼ばれる所以なのかもしれない。
「尚弥選手が1ラウンドの途中で、相手の足に当たってつまずいた場面があったんですよ。でも凄いなと思うのが、それ1回だけなんです。踏み越えていくなり、違う角度から攻めようとするなりしていました。
こんな場面もありました。3ラウンドに尚弥選手がインサイドに入ってきたときにフルトン選手が左フックを合わせようとしたんです。これこそがフルトン選手がこの試合で絶対にやりたかったこと。簡単には入らせないが、入ってきたらきたでフックなりアッパーなりでスピードに乗ったショートで合わせてやるぞ、と。それを尚弥選手はこともなげにヒュッとかわしたんです。合わせようとしたスピードパンチがかすりもしないわけですから、フルトン選手からすればかなりショックだったのではないでしょうか」
フルトンは外堀を埋められていくような感覚だったのかもしれない。肉体のみならず、心も削られていく感覚。井上がバンタム級4団体統一に成功した前回のポール・バトラー戦において中盤、ペースを落としたように見えた点も頭に入っていたはずである。だが眼前にいるモンスターは減量の影響がなくなったためか、ずっとエネルギッシュなままだ。
6ラウンドまでの採点は圧倒的に井上が有利であることは誰の目から見ても明らか。そこで戦法を変えてきたのはフルトンのほうだった。
「7ラウンドに入ってからいつものスタンスに戻してきたんです。彼も踏み込んでのパンチを打ち込んでいくためにスタンスを狭めて、グッと行くつもりなのかと思いました。でも後で考えてみると、むしろ(体力的に)きつくなって緩めてしまったというほうが正しいように感じました」
井上対策を解いた瞬間、あのダウンシーンが…
ジャッジ3者ともに7ラウンドはフルトンの10−9。しかしそれは最後の抵抗にすぎなかったことが次の8ラウンドで証明される。井上は左ボディーストレートを叩いたその刹那、鋭い右を浴びせてぐらつかせ、追い足で左フックを見舞ってダウンを奪ったのだ。