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“慶應大のスター選手だった元日本代表”が43歳でテレビ業界に再就職…なぜラグビー協会を辞めた?「きっかけは高校野球のライブ配信」 

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多羅正崇

多羅正崇Masataka Tara

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photograph byJun Tsukida/AFLO SPORT

posted2023/05/25 11:00

“慶應大のスター選手だった元日本代表”が43歳でテレビ業界に再就職…なぜラグビー協会を辞めた?「きっかけは高校野球のライブ配信」<Number Web> photograph by Jun Tsukida/AFLO SPORT

慶應大2年時に大学日本一を経験した瓜生靖治。サントリーやキヤノンでプレーし、その後はリクルーター活動を経てリーグワン発足に携わった(写真は大学3年時)

 実行力を見込まれ、2016年からは日本ラグビー協会に出向。翌年完全に転籍してトップリーグ運営に専念すると、瓜生はトップリーグの進化形「トップリーグネクスト」を構想する。

 プレゼン資料を作り、当時の日本ラグビー協会専務理事の坂本典幸氏、岡村正会長ら、トップに何度も直訴したのだ。

「もともと協会内にあった『リバイタライズ・プロジェクト』という、新リーグを模索するプロジェクトが止まっていました。これをもう一度動かそうと。2019年にワールドカップ日本大会を控えている状況もあり、人気を向上させ、ファンに寄り添ったリーグに発展させたいと考えて、企画書を作り、当時の専務理事や会長に何度もプレゼンしました。新リーグ構想の火を再燃させた形です」

 リーグの社団法人化、地域性や事業性の重視、海外チームとのクロスボーダーマッチなどなど。現在のリーグワンの原型は、瓜生が手掛けたトップリーグネクストにある。

 ただリーグワン開幕までの日々は、波乱が続いた。準備段階で運営方針をめぐる内部の綱引きが続き、瓜生が立ち上げたトップリーグネクストから数え、準備組織が3回変わった。

 瓜生は、その全ての準備組織に所属してリーグ発足に専念した、ただ一人の関係者だ。暗闘を内部で目撃しながらも、頼みの綱として必死に守り抜いたのはみずからの信念だった。

「組織が3回変わり、4度目の組織でようやく新リーグが立ち上がりましたが、『選手のため、ファンのため』という想いはブレなかったと思っています」

クイズ番組で元アスリートが笑われていた

 瓜生の信念には、起源がある。

 サントリーで営業職の社員選手として3年間働き、神戸製鋼でプロ選手になった頃だ。

 何気なくつけたテレビのクイズ番組で、元アスリートが珍回答をして笑われていた。これがアスリートのセカンドキャリアなのか。アスリートの社会的地位に危機感を覚えた。

「プロ選手になってアスリートの社会的地位向上に取り組みたいと考えるようになりました。文武両道を実践しているアスリートはたくさんいます。セルフマネジメントをすればアスリートはスポーツ界だけでなく、広く社会で必要とされる存在になれると考えています」

 ちょうど同時期、兄の息子たちが、出身の福岡・鞘ヶ谷ラグビースクールで楕円球を追いかけていた。聞けば将来は「ラグビー選手になりたい」と無垢に言う。アスリートの未来は明るい、と言えない自分がいた。

「甥っ子たちが鞘ヶ谷でラグビーをしていました。長男は今年明治大学ラグビー部に入りましたが、小さい頃から彼らの姿を見続け、嬉しい気持ちと同時に不安な気持ちにもなりました。『この子たちが大きくなった時にアスリートがもっと注目され、リスペクトされる環境を作りたい』と思った事も、マネジメントに進もうと思ったきっかけの一つです」

 コーチには向いていない。自分はマネジメントに回り、アスリートの「環境」を変え、ラグビー界、スポーツ界の役に立ちたい。アスリートが真にリスペクトされ、子ども達の憧れとなる世界を作りたい。

 瓜生はマネジメントというセカンドキャリアを見据え、準備を着実に進めた。

 2015年のリクルーター時代に、日本スポーツ協会のクラブ運営サポート資格「アシスタントマネジャー」を取り、翌年には現場主義のマネジメントを目指し、日本ラグビー協会国内最上位のコーチング資格S級コーチを取得。母校・慶大のシステムデザイン・マネジメント研究科(大学院)にも1年通い、人脈と知識の幅を広げた。

 今回テレビ局に再就職したことで、キャリアは「会社員→プロ選手→会社員」というレアケースになった。自身の状況、時流に合わせて転身できたのは、たゆまぬセカンドキャリアへの準備の賜物でもあった。

【次ページ】 「部活動のネクスト」を見せていきたい

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