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“慶應大のスター選手だった元日本代表”が43歳でテレビ業界に再就職…なぜラグビー協会を辞めた?「きっかけは高校野球のライブ配信」
text by
多羅正崇Masataka Tara
photograph byJun Tsukida/AFLO SPORT
posted2023/05/25 11:00
慶應大2年時に大学日本一を経験した瓜生靖治。サントリーやキヤノンでプレーし、その後はリクルーター活動を経てリーグワン発足に携わった(写真は大学3年時)
瓜生が心血を注いできたラグビー新リーグは、国内最高峰「リーグワン」として2022年に開幕した。
その運営組織にABCテレビからの出向者がおり、日常会話の中で『バーチャル高校野球』に強烈な印象を受けたのだという。
高校野球ファンにはお馴染み、朝日新聞社とABCテレビが提供するインターネットでの高校野球総合サービスだ。
「『バーチャル高校野球』は、夏の高校野球の地方大会を、1回戦から全国大会の決勝戦まで、ほぼ全試合ライブ配信するんです。本当に凄まじいコンテンツだなと。日本全国北から南まで、同時間帯の試合もあるのに、どうしてそんな環境を作れるのかと。めちゃくちゃ興味が湧いて、なぜそこまでやるんですかと訊ねたら『すべては高校生のため』だというんです」
すべては高校生のため。
瓜生はそれとよく似た言葉を、みずからの行動理念にしてきた。
「ラグビー協会で貫いてきた信念というか、一つの想いは『すべては選手のため、ファンのため』でした」
自分と似通った価値観を、相手の口から言葉として聞き、心が動いた。
「夏の選手権の地方大会1回戦を観る人は少ないですよね。でも現場にある『細かい想い』を汲み取って、ABCテレビと朝日新聞社がタッグを組み、様々な企業の協力も得て配信している。コロナ禍や配信技術の進歩もあって、スポーツの楽しみ方がどう変化するのかにも興味がありました。ぜひABCテレビでチャレンジさせてくださいと、僕からお願いをしました」
肩書きは“チーフプロデューサー”
それにしても、番組のチーフプロデューサー就任は抜擢だろう。ましてや40歳を超えての異業種転身。「初めて」のテレビ業界では“年下の先輩”に囲まれる。
それが、転職1年目で、予算管理から出演者、番組方針の決定権を持つ総責任者になったのだ。
本人は「なぜ僕が」と恐縮する。
しかしラグビー界での実績を振り返れば、抜擢された理由が納得できる。
2011年の現役引退後、キヤノンのリクルーターとなった瓜生は、2013年初開催のリーグ合同トライアウト「トップリーガー発掘プロジェクト」を構想。発起人となった。
「当時は大学生でS級と言われるトップの選手以外にあまり陽が当たらず、それがトップリーグチームのためにも、学生のためにもなっていない状況がありました。原石が世に出てしまうと取り合いになる可能性もありましたが、それよりも大きな原石をみんなで見てあげる状況が作りたいと思い、手弁当で始めたのが2013年でした」
チーム所属のリクルーターが、リーグ全体のトライアウトを開催したいと、関係者に頭を下げて回る。異例の行動だった。そして、実現させた。
その後合同トライアウトは9年間開催。昨年日本代表に選出された竹内柊平(浦安D-Rocks)や、習志野自衛隊出身の福坪龍一郎(豊田自動織機シャトルズ愛知)らを輩出した。