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「お前しかいない」明治ラグビー“100代目の主将”を託された“エリート”廣瀬雄也の魅力「ステップ踏まずに正面からぶつかる」
text by
中矢健太Kenta Nakaya
photograph byTakuya Sugiyama
posted2023/05/17 11:01
明治大ラグビー部の主将を務める廣瀬雄也(4年)。すでに開幕している春季大会は2試合連続で欠場となったが、頼もしい男が日本一へ向けてチームを牽引する
「アイツは頑固です」
明治でともにリーダーを務めるLO山本嶺二郎とSO伊藤耕太郎(ともに4年)が口を揃える。
「雄也は他人の意見に振り回されないんです。一度決めたことを曲げないし、自分の軸を持っていて。少しでも横道に外れたら、すぐ原点に戻れる」(山本)
「1年生から試合に出ていることもあって、すごく自信を持ってる。でも、責任感が人一倍強い。僕も雄也のそういう部分にすごく助けられてきました」(伊藤)
そして、生粋の負けず嫌い。とにかく、負けたくない。元ラガーマンの父は、大阪府生野区の生まれ。当時、厳しい練習で知られた東生野中学校、通称「トンナマ」の出身だった。宮崎県で生まれ育った穏やかな母の傍ら、父はラグビーになると、熱く、激しい。廣瀬はラグビーを始めた頃から、勝負に負けることを許されなかった。その血を引き継いでいるからだろうか。ステップを踏むよりも、真正面からぶつかって勝ちに行きたい。そう思う。
キャプテンとしてチームに厳しいことを言っても、自分の行動が伴わなければ信頼は得られない。特にラグビーは、厳しい場面で体を張れるかが重要視される。相手との勝負はもちろん、常に自分にも勝ち続けなければならない。
「自分だったらキャプテンに求めるものは何かな? って考えたら、やっぱり言葉と行動が一致しないといけないと思って。口だけじゃなくて、行動で示す。しっかりやろうって言ったところは、自分が一番やる。難しいですけど、キャプテンシー以前に、いちプレーヤーとして気をつけています」
空回りしてしまった最後の花園
一方で、自分が全部抱えないことも大切にしている。東福岡時代、苦い経験があった。
高校3年生になったばかりの4月、試合中に肩を脱臼した。チームは共同キャプテン制を採択しており、廣瀬と永嶋仁(現・早大4年)が務めていた。
7カ月の離脱。花園までのシーズンをほぼリハビリに充てた。授業が終わるとグラウンドではなく病院に向かった。新しく入部してきた1年生の顔と名前はなかなか覚えられなかった。不在の間は永嶋がチームを支えた。
ところが、花園になると、目立つ廣瀬を周囲は放っておかなかった。ネットニュースや新聞記事に書かれるのは、自分のコメント。チームメイトに申し訳なさを感じながら、長期離脱した借りを返そうと個人プレーに走って、空回り。チームは準決勝で敗退した。
戦っているのは自分だけではない。まわりに頼ることの重要性を痛感した。
だから今はすべてを抱えるのではなく、人に任せる。例えば、戦術などのプレー面はもちろん、寮生活などオフフィールドも、役割に沿って4年生に任せている。練習中も、前に出る場面と、一歩引くバランスを意識する。
「自分も得意、不得意があるので。他のリーダーもそれぞれリーダーシップを持っているし、僕だけが前に出ると、それはそれで孤独になる。いろいろ任せることによって、自分が孤立せず、チームみんなで作っていこうって思っています」