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「お前しかいない」明治ラグビー“100代目の主将”を託された“エリート”廣瀬雄也の魅力「ステップ踏まずに正面からぶつかる」
posted2023/05/17 11:01
text by
中矢健太Kenta Nakaya
photograph by
Takuya Sugiyama
大学日本一13回の実績を持つ明治大学ラグビー部は、今年で創部100周年を迎えた。昨季から伝統の紫紺ジャージの右袖と背中には「100th」の文字が刻まれている。この記念のシーズンにキャプテンを担うのが、4年生の廣瀬雄也だ。
179センチ、94キロ。ポジションはセンター。ふんわりした前髪に精悍な顔つき。どこか人を惹きつける華やかさがある。昨年度の全国大会で優勝を果たした高校ラグビー屈指の強豪、東福岡では共同キャプテンを務め、高校日本代表にも選出された。
一見、ラグビーエリートである。その肩書や外見のせいで誤解されることも少なくない。
「コンプレックスはいっぱいありますよ。けっこう人見知りで、人前で喋ることは苦手です。滑舌もあまりよくないから、みんなによくイジられます」
意外にも、幼少期からキャプテンを務めてきたわけではなかった。
「彼はチームを優先していたから」
小1からラグビーを始め、初めてキャプテンを務めたのは17歳以下の高校九州代表だった。短期で編成されるチームは、所属チームでキャプテンを務める者がそのままキャプテンになることが多い。だが当時、廣瀬はキャプテンどころか、副将やリーダーも務めたことはなかった。
当時、日本ラグビー協会リソースコーチとして九州代表に関わり、廣瀬をキャプテンに推薦した一人である野澤武史氏には、忘れられない出来事があった。
合宿初日の練習開始前、グラウンドに一番早く来ていたのが廣瀬だった。自分の準備をしながら、誰に言われるまでもなく、全員分のスクイズボトルに水を注いでいる廣瀬を見て、思わず声をかけた。
「こういうことよくするの?」
「いや、僕も飲むからみんな飲むかなと思って」
自分がやらなくても、誰かがやってくれる。そんな考えを持っていない17歳に野澤は驚いた。
「他人のことだから放っておくこともできるし、高校生くらいの子って、どうしても自分を優先しがちじゃないですか。でも、彼はチームを優先していたから」
これがきっかけとなり、キャプテンとしての廣瀬のキャリアはスタートした。同年の高校日本代表は、海外遠征こそコロナで中止となったが、チームのキャプテンを務めたのは廣瀬だった。明治に入学してからは、1年生から学年リーダーを務めた。