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「那須川天心の本質は“倒し屋”ではなく“勝負師”」なぜボクシングデビュー戦で“日本人選手との対戦”を希望した? 記者が目撃した覚悟の正体 

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橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

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photograph byHiroaki Yamaguchi

posted2023/04/28 11:04

「那須川天心の本質は“倒し屋”ではなく“勝負師”」なぜボクシングデビュー戦で“日本人選手との対戦”を希望した? 記者が目撃した覚悟の正体<Number Web> photograph by Hiroaki Yamaguchi

ボクシングデビュー戦で判定勝ちを収めた那須川天心

デビュー戦は「快挙」なのか「物足りない」のか

 那須川vs与那覇が行なわれた大会はAmazonプライムビデオで生配信。広告や公開計量時のボードは那須川が中心だった。セミ、メインでは世界タイトルマッチもあるのに、だ。また計量の会場は東京ドームホテルの広間。ボクシング記者ならざる“格闘技記者”の筆者は「さすがボクシング」と思ったが、スポーツ紙の記者が教えてくれた。

「いつもはこんな大きい会場じゃないんですよ。天心だからです」

 大物だけど新人、しかしただの新人とするには破格すぎる。だからこそ評価も分かれる。

 スーパーバンタム級の試合ながら、デビュー戦の選手がバンタム級2位に勝ったのだから快挙だ。だが判定勝利では物足りないと見る者もいる。もちろん圧勝だったことは間違いない。1ラウンドからペースを握る。圧力をかけてくる与那覇に対し、サウスポーの那須川は下がりながら右のジャブを当てる。さらに左ストレート。場内に“バスッ!”という鈍い音が響いた。

 2ラウンドには、相手のパンチをいなしざまの右フックでダウンを奪う。4ラウンドには連打をまとめ、もう少しでストップかという場面もあった。

 ただそこから、深追いはしなかった。強引にねじ伏せるような闘いではなく、あくまでリスク回避を頭に入れながら。劣勢の与那覇は途中から「しのぐほうにシフトしてしまった」と言う。そうなると仕留めにくい。那須川陣営としても、デビュー前は絶対に勝たなくてはいけない。1ラウンドを終えてのセコンドの指示は「このまま最後まで」だった。

那須川の本質は“倒し屋”ではない

 それが肩透かしだったというファンもいるだろう。那須川のキックでのKO率は高い。現役ムエタイ王者をバックキック一発で倒した試合、武尊を豪快なフックでダウンさせた場面を記憶している者も多いはずだ。

 しかしキックボクシングでのラスト10戦では、判定が7という結果だ。那須川の本質は“倒し屋”ではなく“勝負師”。まず絶対に負けないことを意識して闘い、その上でKOを狙う。野球でいうならヒットの延長がホームランというタイプだ。RIZINで皇治に判定勝利した際には「倒せなかった」、「倒れなかった皇治はよく頑張った」という見方に強く異論を唱えてもいた。それは格闘技の本質ではないと。

 試合に勝つこと。それ以上の価値はない。徹底して勝ち負けにこだわってきたから、キックボクシング、MMAで全勝という結果を残してきたのだ。与那覇戦では、何よりもまず白星が大事だった。仮に負けたら、それこそ「ボクシングでは通用しない」と言いたがる者たちが騒ぎ出す。キャリアの進め方も変わってくる。

 パンチに関しても、常にその次のポジションを意識し、体重移動しながら打っていたという。だから今回は“踏み込んでの強打”ではなかった。

「今回はとにかくもらわないことを意識しました。パンチはほぼほぼもらわなかった。スピード的にはよかったですし空間把握もできたし、コントロールができました。ただ警戒しすぎたというのはありますね。これを機にもっと倒せるようにというか、そういうパンチを磨きたいです」

 那須川は試合後、そう語っている。また連打について「ボクシングだとあれでストップがあるんですよね。決めたかったですけどね」と振り返っている。ダウンはかすったようなパンチによるもの。相手がバランスを崩したようにも見えた。与那覇自身は「あれはボクシングではダウン」と言う。那須川は「あれでダウンになるんだなと。キックボクシングではスリップと判断されるかもしれない。自分も気をつけなきゃと」。

【次ページ】 日本人選手を希望したのは那須川本人だった

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