日本人選手を希望したのは那須川本人だった

　ボクシングでどう闘うか。どこに気をつけるべきか。一つひとつ確認するように闘っていたのだろう。那須川としては、あくまでデビュー戦。トランクスにスポンサーの広告を入れることなく試合に臨み、髪は染めていたもののボウズだった。

　試合前日の計量、向き合っての写真撮影では、顔を近づけて与那覇を睨みつけた。その場面は「僕の意思」と那須川。

「生半可な意気込みじゃないということです」

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　その意気込みは、相手だけではなく周りにも向けられていたという。試合が決まると、対戦カードを「ボクシングからの果し状」と表現してもいた。新人として試合に臨みながら「通用するのか」という声にも向き合っていたのだ。

　計量を終え「明日は格闘技をやります」とも。試合後には「強い相手とやるのが格闘技」とコメントした。デビュー戦の相手に日本人選手を希望したのは、那須川自身だったそうだ。“それなり”の外国人を呼ぶこともできたが、それはしたくなかった。

　日本人選手は誰とどんな闘いをして勝ってきたのか（負けてきたのか）がはっきり分かる。つまり“モノサシ”になる。それだけ那須川の強さも測定されやすい。あえてそれを望んだのだ。デビュー戦は“現時点の那須川天心”をより正確に確認するためのものでもあった。その上で彼は言う。

「これが一番強い那須川天心ではないので」

ボクシングデビュー戦で見えた“いつもの天心”

　これから修正すること、伸びる部分がたくさんある。スーパーバンタム級はキックでのベスト体重55kgとほぼ同じだが、ボクシングの練習に専念することで筋肉のつき方も変わった。それだけ減量が楽になったようだ。これからはバンタム級も視野に入ってくるかもしれない。那須川天心の未来に関して“既定路線”を予測する必要はないだろう。

　プロデビュー戦から取材してきた筆者から見ると、今回のデビュー戦は“ボクシングの新人”と“いつもの那須川天心”の両面があった。新たなルールに適応する闘い。しかしそれはこれまでもやってきたことだ。キックボクシングはヒジなし、ヒジありどちらも経験。RIZINでのMMA、キックとMMAをラウンドごとに交互に行うミックスルール。メイウェザーとはボクシングに準ずる立ち技ルール。

　那須川天心のキャリアは挑戦と適応の歴史だった。RIZINからMMAでの出場を打診された時は「ここでやるかやらないかで俺の人生が変わる」と腹を括ったそうだ。そこでインパクトを残し、存在感を高めたから、RIZINでもキックボクシングルールで試合ができるようになった。

　何より、勝負に対してのシビアさが“いつもの天心”だった。ならば何も心配はいらない。那須川天心は那須川天心らしく、ボクシングの頂点を目指すだけだ。

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