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あの“ペッパーミル騒動”なぜ賛否が割れた? 東北・佐藤洋監督「初めての甲子園で思ったのは…」「ぜひ議論に」本当の問題点を考える
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byJIJI PRESS
posted2023/04/11 11:01
高校野球はこれからも教育の一つでしかないのか、それとも、楽しむものに転換していくのか
巨人に所属したプロ野球選手だった佐藤は、現役引退後に子ども世代の野球教室を開催する中で、「野球が子どもたちのためのものではなくなっている」ことに気づいた。そして、活動の根本として「野球を子どもたちに返す」、つまり「楽しませる」ことを志した。
スポーツは教育? 楽しむもの?
昨夏から就任した母校・東北高の監督としても、佐藤が目指したのは「高校野球を子どもたちに返す」だった。練習で監督然とすることもなければ、グラウンドには音楽が流れる。高校球児の当たり前とされた坊主頭を強制はせず「髪型自由」。さらに、試合では選手からの要望がない限り「ノーサイン」とした。
その結果、昨秋の宮城県大会を12年ぶりに制覇し、つづく東北大会で準優勝。センバツ出場を果たしたのだった。
プロの世界に目を向けても、世界一に輝いたWBC日本代表が野球の魅力を伝えてくれた。
東北高校OBであるダルビッシュ有の「みんな気負いすぎ、戦争に行くわけじゃない」という発言もあったように、今大会の侍ジャパンは何より楽しそうに野球をやっていた。その雰囲気の良さが伝わる行動の一つが、ペッパーミルパフォーマンスだった。
同様に、東北の選手たちは、野球を楽しもうとした。佐藤は選手たちが試合においてペッパーミルパフォーマンスをやるということを事前に知らなかったという。仮に知っていたとしても何も言わなかっただろう。選手が自発的に考えたものを否定するのは「スポーツの本質を損なう」と考えているからだ。
一方、スポーツを「教育の一環」と考えている人たちからしたら、東北高の野球の楽しみ方は異質に見えて当然だ。
そもそも、スポーツに関する捉え方が違うのだから、両者がぶつかるのは避けられないのだ。
佐藤監督が大会後に語ったこと
佐藤は大会後の取材でこう語っている。
「初めて甲子園の舞台に立って思ったのは、宮城や東北大会とはちがう野球がここにはあったということ。大人の都合ではなく子ども主導で考える時代がもうそこにきていると思います。ぜひ、今回のことで議論してもらいたいですね」
高校野球はこれからも教育の一つでしかないのか、それとも、楽しむものに転換していくのか――。
今回の騒動は、ペッパーミルパフォーマンスそのものの是非を越えて、高校野球が今後歩むべき道を問いかけたような気がしてならない。
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