濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「見に来なくなったファンも…」プロレスとエンタメの狭間で“闘う女優”は何を見せる? 青野未来の葛藤「ヌルいことをやっていると思われたくない」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2023/02/17 11:03
1月29日の新木場公演にて、入江彩乃を攻める青野未来
青野の葛藤「見に来なくなったファンの方もいます」
アクトレスリングでは、演劇と違い役名ではなく個々の名前でリングに上がる。青野未来は青野未来だ。だから負ければ悔しいしもっと力をつけたいと思う。昨年夏からは、元レスラーでスターダムのGMを務めていた風香がアドバイザーに。「プロレス」という言葉を使うことがまったくのタブーではなくなってきた。
青野自身も、ことさらに「プロレスではない」と強調したいとは思わないそうだ。アクトレスガールズのメンバーは、新体制でもプロレスの練習をしているし、技をかけられ受身を取ったら痛い。中でも青野はメインで体を張り続けてきた。
「新体制で“ここが従来のプロレスとの違いで、こういうふうに面白いです”と胸を張れるものがあればいいんですけど、今はまだ……。でもプロレスじゃないからヌルいことをやっているとは思われたくないんです。新体制になって、見に来なくなってしまったプロレスファンの方もいます。それは本当に悲しいというか辛いというか。“だってプロレスじゃないんでしょ”って思われて当然ではあるんですけど。とにかく一度、見てほしいんです」
魅力的な新人がたくさんデビューした。同時に旧体制からの“残留メンバー”も成長を続けている。自分のことだけに集中できなくなってはいるが、だからこそ「今のメンバーで面白くしたい」と考えるようになった。特に松井珠紗と入江彩乃は見違えるようだ。「プロレスに対する気持ちやメンバーへの愛着は、旧体制の頃より強くなりました」と入江。
青野は、パワーファイターとしての実力をさらに高めている。得意技はバックドロップにダブルアーム・スープレックス、ラリアット。「シンプルな技に説得力を持たせたい」と言う。今年最初の試合では、ミサイルキック(コーナー最上段からのドロップキック)でフィニッシュしてみせた。誰もが使うような技が必殺技になる。レスラーとして一つの理想だろう。プロレスとは言わないリングで、しかし青野未来の“プロレス”は研ぎ澄まされる一方だ。
選手たちの間にも生まれていた“拒否反応”
昨年11月には、久しぶりに他団体に参戦した。同年デビューの朝陽の求めに応じ、アイスリボンで試合が組まれたのだ。朝陽は新体制のアクトレスガールズも「プロレス」だと明言した。
ただ他の選手には拒否反応もあった。今のアクトレスガールズは何をやっている団体なのか分からず、だから前向きになれなかったということだろう。極端に言えば“あなたたちはプロレスと縁を切ったんじゃないのか”ということだ。青野は入江と組み、朝陽&松下楓歩とドロー。試合後の松下はノーコメントだった。松井とのシングルマッチに勝ったトトロさつきは相手の力を認めながらも「今日がプロレス人生で一番迎えたくない日でした」と語っている。青野は、久々のアイスリボン参戦をこう振り返った。
「こんなにアウェイなのかと。お客さんの反応もそうだし、内容としても出し切れなかった。悔しかったですね。何かがズレていた感じがします。私が知ってるアイスリボンさんではないな、歓迎されてないなって。でも試合後の売店(グッズ販売とサイン会)にはたくさんの人が来てくれて“あれっ?”てなりました」
青野をはじめ選手たちには興味も好意もあるが、ここでアクトレスガールズとアイスリボンが交わることがうまく飲み込めない。観客たちはそんな感覚だったのではないか。結局、アイスリボンとアクトレスガールズの交流戦/対抗戦は今年に入って中断した。
「今、大きな悩みのタネは試合数が減っていることです。他団体に上がれないので。リングに上がること、他団体の選手と試合するのは凄くいい経験になるんですけど」
模索し、葛藤し続けた1年だった。演劇公演にも力を入れたかったが、それも叶わなかった。「プロレス団体」で活躍し、知名度を上げる元同僚たちを見ると誇らしく思うと同時に悔しさも感じた。自分たちは何をやっているのか、と。