モーターサイクル・レース・ダイアリーズBACK NUMBER
《加藤大治郎は意外に下手だった》MotoGPライダーがモトクロスでトレーニングする理由とは?《きっかけはあのレジェンド》
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph bySatoshi Endo
posted2023/01/14 17:00
昨年8月、モトクロスでトレーニングを行う小椋。このときはレースが1週空いたタイミングだった
ヨーロッパでは冬でも温暖なスペインのヘレス、熱帯の国マレーシア、北半球が冬のときに夏真っ盛りの南半球のオーストラリアへと足を延ばしたが、僕の記憶では、多いときはシーズンオフに20日前後のテストが行われていた。
選手たちは、まさにシーズン中もオフもレース用バイクでサーキットを走ることが多く、モトクロスのトレーニングなどしている暇はなかった。そのテストで若手たちはたくさんのテクニックを習得し、ベテランたちは新たな技を見つけていく。ロッシが発明し、いまレース界の常識となった足出し走法も、こうした中から生まれたものだった。
どっちの時代が良かったのだろうと考えると、バイクメーカー、タイヤメーカー主導のテストが頻繁に行われていた時代は見どころもたくさんあり、ジャーナリストにとっても話題がたくさんあった。
テストにおけるメーカーの技術競争やタイヤメーカーの戦いも熾烈だった。ライバルが10日間のテストをするならこっちは11日間。次の大会に向けて先乗りテストするなら、こっちは別働隊を結成してすべてのサーキットで先乗りするなど、競争の原理が働いた。いまは様々な規制により直接の競争状態は少なくなったが、空力開発など新たな争いが生じている。
速いライダーほど怪我をする!?
選手たちはいま、新たなシーズンに向けて思い思いにトレーニングに励んでいる。モトクロストレーニングで気をつけなければならないのは怪我。選手たちはモトクロスにおいてもロードのスピード感で走りがちで、転倒したとき大きな怪我をすることが多いからだ。2010年にはロッシがモトクロスで右肩を痛め、それ以後の戦いに悪影響を及ぼしたし、マルク・マルケスもモトクロスの怪我で2021年シーズンの終盤戦を欠場した。
その昔、MotoGPクラスで日本人初のチャンピオンが期待された故加藤大治郎は、ロードレースは最高の腕前だったが、モトクロスはとても上手とは言えなかった。しかし、そういう大ちゃんがモトクロスで遊びのレースをするとなかなかの走りを見せた。ライディングは下手でも勝つレースをするという、まさに天才ライダーならではのエピソードだ。
一方、モトクロスの腕前がどんどん上達している小椋はコース上でのスピードが速くなり、ジャンプも高く遠くへ飛ぶようになってきた。大会に出てみたらどんな走りをするのだろうと興味深いほどだ。いずれにしても、シーズン開幕を前にくれぐれも怪我をしないようにと願っている。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。