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羽生善治は藤井聡太20歳の将棋をどう見ている? 「棋譜を見れば伝わってきます」「32歳差ですか。だいぶ離れてはいますけど…」

posted2023/01/08 11:01

 
羽生善治は藤井聡太20歳の将棋をどう見ている? 「棋譜を見れば伝わってきます」「32歳差ですか。だいぶ離れてはいますけど…」<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

王将戦七番勝負で藤井聡太王将に挑戦する羽生善治九段。藤井聡太五冠の将棋をどう見ているのか、本人に聞いた

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高川武将

高川武将Takeyuki Takagawa

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Kiichi Matsumoto

 昨年度は棋士人生37年目にして初めての負け越し。ところが、今年度は前人未到の通算1500勝達成など、不振から脱却してあらためて健在ぶりを示している羽生善治。1月8日から始まる王将戦七番勝負で藤井聡太五冠に挑戦する52歳の衰えない探求心の源はどこにあるのか。自らの現状、AI時代における人間の可能性、そして藤井聡太について率直に語った、Number1060号『[ロングインタビュー]羽生善治「来るべき、小さな光」』(2022年10月6日発売)を特別に無料公開します。(全2回のうち後編/前回は#1へ)※肩書は当時のまま、取材は2022年に行われました。

羽生が抱く無力感「何のためにやってるのかな」

――昨年沢山負け続けて得たものは何ですか。例えば、負けることの意味とは?

 しばし考えを巡らした羽生は、やはり意表を突いた答えを返してきた。

「何のために将棋を指しているのかなって考えることは結構あります。AIが何百万、何千万局も指している中で、人間が何のためにやっているのか。よく考えますね」

 これまで何度も話を聞いてきたが、振り返れば、なぜ闘い続けるのかというたった一つのことを聞き続けていたような気がする。羽生はよく言ったものだ。

『闘うものは何もないんです。勝つことにも、将棋を指すことにも意味はない。だから突き詰めちゃいけない』

 その突き詰めてはいけない将棋を指す意味を、羽生は考えることが増えたという。

「将棋を究める作業で言えば、人間が一生でできる将棋はたかが知れている。大きいPCを使ったら一日くらいで、一生分のシミュレーションができちゃう(笑)。だから、何のためにやってるのかなって。

 局面について考えていると、必然的にそういうことを考えるんですよ。(思いついた手が)これ、AIで検索済みなんだろうなとか、AIの枠組みに入ってるんだろうなとか。またすぐその外側をふらふらしてみて、どこに行けばいいんだろうって(笑)」

人間だから見つけられて、AIには見つけられない場所

 真っ暗な宇宙を一人泳ぎ続ける羽生、目指す先には小さな光があると信じて――。苦しいはずの話をさも楽しそうに話す姿を見ながら、脳裏に浮かんだのはそんな光景だった。何のために人間が将棋を指すのか……。すると彼は、何かを思いついたように力強い口調で話した。

「でもそれは、AI同士では表れない将棋を人間が指せるかどうかということでもあるんです。いや、きっとあるはずなんですよ。AIの枠組みと、その外側のAIが評価しないところとの『間の場所』が絶対にあるはずなんです。統計の外側みたいなところで、人間だから見つけられて、AIには見つけられない場所が。人間の死角のほうが遥かに大きいけど、AIにも死角がある。その場所を見つけられたらいいな、と」

 小さな光はあった。誰よりも勝ち続けてきた羽生が負け続けることで見出した、人間だけが見つけられる『間の場所』。だが、どうやってそこまで辿り着こうとしているのだろう。

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