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「これっきりにしたい」全日本V、坂本花織が恒例のガッツポーズをしなかった理由「終わったときはきつくて…」「日本の未来は明るいな」
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto
posted2022/12/27 11:04
快心の演技も終わった後、不思議なほど冷静な様子だった坂本花織。本人にその理由を聞くと…
こういうことは、これっきりにしたい
指導を受ける中野園子コーチからは、今シーズン開幕までをどう過ごしていくのかが課題と指摘されていた。昨シーズンは北京五輪銅メダル、世界選手権金メダルと大舞台で輝きを見せた。大会へ向けての練習も含め心身ともにその消耗は大きかったし、大学4年生になってスケートと学業をどう両立させるかという問題もあった。いろいろな要因が絡んで、どう頑張っても、自然と練習が足りなくなったのは否めない。その現実を突きつけられたのがファイナルだった。
でも、そのままでは終わらなかった。
「こういうことは、これっきりにしたいと思います」
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帰国すると、試合の疲労をものともせず、徹底的に走り込みを行った。氷上でも隙を見せない練習ぶりに切り替わった。中野コーチも「心を入れ替えて、練習、トレーニングを頑張りました」とその変化を評する。
まだまだ自分はできるんだぞ
その時間が試合を前に自信を生み出した。ショートプログラム前日の公式練習後、坂本はこう語った。
「『まだまだ自分はできるんだぞ』と言えるよう、ショートもフリーもしっかりそろえられたらと思っています。今シーズンの中でいちばん調子を上げることができたので、試合が今は楽しみだなという感覚です」
試合を終えてからはこのように語っている。
「今まででいちばん気持ちよく、自信を持って滑ることができました」
ただ、走り込みをして練習の取り組みも変わったと言っても、ファイナルから全日本選手権までそれほど時間があったわけではない。それでもここまで見違えるほどの変化を遂げたのはなぜか。それは「土台」があったからにほかならない。坂本は長年、地道に練習を積み重ねてきた。その成果として、昨シーズンの躍進が象徴的だったが、ジャンプをはじめあらゆる要素で高い加点を得られるところまでクオリティが高まり、さらに演技構成点も伸ばしてきた。真摯に時間をかけなければ身につけることができない洗練された質の高い演技こそ、坂本が積み上げてきたその成果だ。
その土台があった上で「これっきりにしたい」という言葉を無駄にせず有言実行とした。いわばスイッチが入ったことで、土台がようやくいかされ、本来の滑りを取り戻すことができた。
そう考えれば、長年の取り組みがあってこその優勝であったし、自分が何をやるべきかを自らつかみ、実行できた経験は今後の大きな糧となったに違いない。
ジュニア勢の躍進をどう思っている?
今大会は、ジュニアの時代に初めて出場してからちょうど10回目の全日本選手権でもあった。一度も空白がなく、10年続けて出場してきたこともまた、坂本のキャリアと強さを示している。