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那須川天心vs.武尊はなぜ歴史的な名勝負になったのか? 格闘技アンケート1~3位を分析「桜庭ホイス戦のような試合はもう生まれない」 

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布施鋼治

布施鋼治Koji Fuse

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photograph byTHE MATCH 2022/Susumu Nagao

posted2022/10/26 17:04

那須川天心vs.武尊はなぜ歴史的な名勝負になったのか? 格闘技アンケート1~3位を分析「桜庭ホイス戦のような試合はもう生まれない」<Number Web> photograph by THE MATCH 2022/Susumu Nagao

地上波放送は消滅したものの、PPVで驚異的な売上を記録した『THE MATCH 2022』。格闘技の新たな時代の幕開けを告げるイベントとなった

 それだけではない。那須川vs.武尊は、格闘技界の“失われた十数年”を埋め合わせてくれた。2000年代前半の格闘技の興隆のきっかけを作ったPRIDEは2006年に、一時はフジテレビ、TBS、日本テレビの3局で放送されていた旧K-1は2010年に地上波放送の休止を余儀なくされた。その後、格闘技イベントの地上波ゴールデンタイムでの放送再開は2015年のRIZIN旗揚げを待たなければならない。しかし、そのRIZINも一般大衆の心に焼き印を押すようなインパクトの大きな名勝負はまだ残せていない。

 そうした中で、RIZINが冷戦構造にあったK-1とRISEを仲介する形で実現した『THE MATCH 2022』は、開催直前にフジテレビが放送を見合わせるというアクシデントに見舞われた。にもかかわらずベストバウトに選出されたことは特筆されるべきだろう。那須川vs.武尊は地上波抜きで成立した、初めての名勝負だったのだ。

予定調和から逸脱した桜庭vs.ホイスのダイナミズム

 続く第2位には、2000年5月1日の桜庭和志vs.ホイス・グレイシーが選出された。いまから22年前の大一番であるが、そのインパクトはまるで色褪せていない。桜庭がホイスの柔術衣を掴んでひっくり返したり、回したり──のべ90分に渡るロングファイトの末に、桜庭が無敵を誇っていたホイスを破ったことで、MMAという新たなジャンルは瞬く間に認知された。

 当時、MMA界にはホイスがベースとするグレイシー柔術の“最強幻想”が広がっており、実際ホイスや彼の実兄であるヒクソンが敗れることはなかった。その影響力は甚大で、グレイシー柔道の台頭によって日本の格闘技文化に根付いていたプロレス最強幻想はもろくも崩れつつあった。しかしプロレス出身の桜庭が、メリハリのあるリアルファイトでホイスを戦意喪失(タオル投入)に追い込んだことで一矢を報いたのだ。

 試合時間は15分無制限ラウンド(現在、日本のMMAは5分3ラウンドが一般的)であるのに加え、ホイスとの無差別級トーナメント2回戦に勝利した桜庭には同日イゴール・ボブチャンチンとの準決勝が用意されているなど、過酷すぎる状況下での闘いだったことも忘れてはならない。黎明期の出来事とはいえ、いまならリングドクターがホイス戦の途中でストップをかけているのではないだろうか。ライブ中継枠を無視した試合時間設定は、ときとして予定調和から逸脱したダイナミズムを生み出す。もうこんな名勝負は生まれない。

【次ページ】 格闘技ブーム全盛期のカリスマ対決

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