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那須川天心vs.武尊はなぜ歴史的な名勝負になったのか? 格闘技アンケート1~3位を分析「桜庭ホイス戦のような試合はもう生まれない」
posted2022/10/26 17:04
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph by
THE MATCH 2022/Susumu Nagao
「格闘技のイベントで、これだけの観客を集めることができたのはいつ以来だろうか」
5万6399人(主催者発表)と超満員の観客で膨れ上がったスタンド席を見上げると、心の奥底から湧き出る興奮を抑えることができなかった。2022年6月19日に東京ドームで開催された『THE MATCH 2022』は、格闘技の底力を示す歴史的なイベントとなった。
お目当てはもちろん、メインイベントに組まれた那須川天心vs.武尊。大会直前にはそれまでの予想を覆すように「武尊が有利」という声が高まっただけに、1ラウンドに那須川が左フックで先制のダウンを奪ったときの場内の盛り上がりようといったらなかった。
「1回きりの大勝負」ゆえの希少価値
このたびの名勝負アンケートでも、堂々の1位に輝いた。なぜこの一戦が推されたのかといえば、今年になってからの大一番ということもあるが、最大の要因は究極ともいうべき夢の一騎討ちが本当に実現したからだろう。7年も前から直接対決が期待され、何度か実現の機運が高まることもあったが、そのたびに“大人の事情”によって霧散していた。
誰もが「もう実現は無理」とサジを投げていた矢先に、話は一気にまとまった。1970年代のキックボクシングブームのときに実現しそうでしなかった“ライト級頂上対決”藤原敏男vs.沢村忠のような悲恋物語には終わらなかった。
この一戦を最後に那須川がキックを卒業し、プロボクシングに転出する、というシチュエーションも興味を膨らませた。興行の世界ではよくある「負けても次がある」という惰性の連鎖ではなく、泣いても笑っても1回きりの大勝負。そのプリミティブな勝負性が、希少価値を高めた。
また那須川vs.武尊の実現によって、キックの底力を世間に改めてアピールすることにも成功した。日本最大の格闘技イベントであるRIZINがMMA中心ということも手伝い、近年はMMAがキックの上位概念に置かれることが多かったが、この一騎討ちはキックのステータスそのものを高める役割を果たしたのだ。