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有田工“異色のスイッチヒッター”は甲子園に何を残したか? 打席の判断はすべて本人…ルール上OK→“球審が注意”には疑問も
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byAFLO
posted2022/08/14 06:01
有田工“異色のスイッチヒッター”山口洸生は甲子園に何を残したのか?
甲子園は浅野のようなスケールの大きなバッターを待ち望んでいる一方で、山口のような個性も欲している。2013年の夏にベスト4となった花巻東において、156センチとひときわ小柄ながら「カット打法」で観衆を沸かせた千葉翔太のような、「生きる道」を体現する選手。山口もまさにそうだったからだ。
判断は山口本人…見せた「生きる道」
昨年の新チーム発足時から左打ちの練習を始めた狙いを、こう説明する。
「足には少し自信があって、左なら(逆方向に)セーフティーバントをしたり、ショートにゴロを打てばセーフになれると思って」
そんな山口の姿勢を、監督の梅崎信司は目を細めながら評価する。
「純粋で野球好きな選手なんです。なんとかうまくなりたい、チームに貢献したいという気持ちを出して、試合になれば送りバントでもなんでもしっかりやってくれる。野球以外でも、グラウンド整備や周辺のごみ拾いとかもコツコツやってくれる努力家と言いますか、応援したくなるような選手です」
佐賀大会の準決勝。コツコツと技術を積み上げてきた「異色のスイッチヒッター・山口」のプレーが、MLBの公式サイトで取り上げられ話題となったという。
変幻自在のパフォーマンスが海を渡る。日本国内でも情報が拡散され、賛否が巻き起こる。山口は批判的な意見も歓迎するかのように、不敵に笑う。
「アンチコメントとか見て、『もう1回やってやろう』って思いました」
そして、山口は自分の生きる道を甲子園でも見せつけた。
監督からは「打席を変えろ」といった指示は出ない。判断は山口本人が下す。第3打席は右打席でしっかりと送りバントを決め、第4打席も右打席で勝負しショートゴロだった。
有田工に継承された意志
2打数無安打、1四球、1犠打。
ヒットは出ずとも、山口は甲子園に「個性」を残した。チームが敗れても笑顔だったのは、力を発揮したと実感できたことと、最後の夏を甲子園で終われたこと。そして、後輩に意志を託せたことだった。
「角田(貴弘)とか犬塚(康誠)とか相川(翔大)とか北川(晴翔)とか、いい選手がたくさんいるんで。『来年も期待しているぞ』と声をかけました」
このうちのひとりである相川は、山口と「8・9番コンビ」で試合に出場していた。
9回。それまで右打席に入っていた後輩が、左打席で最終打席を迎える。ボール、見逃しのストライク、空振りのストライク。3球見た直後に、先輩と同じように主審の後ろを小走りで移動し、右打席で仕切り直す。
結果は見逃し三振。
悲観することはない。有田工には個性がしっかりと継承されている。