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有田工“異色のスイッチヒッター”は甲子園に何を残したか? 打席の判断はすべて本人…ルール上OK→“球審が注意”には疑問も
posted2022/08/14 06:01
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph by
AFLO
この夏、スイッチヒッターの代表格と言えば、高松商の浅野翔吾だ。
佐久長聖との初戦で右へ左へと2本の豪快なアーチを描き、高校通算ホームラン数を66本まで伸ばした。いずれも右打席で、右ピッチャーから放ったものだった。
浅野は本来の右打席で打つことが多い。左打席に立つのは、球速が遅いピッチャーか右のアンダースローなどに限定されている。仮にこういったタイプのピッチャーと対峙しても、「入るかもしれない」程度の意識だそうだ。
8月13日。
浅野と対極の選手が登場した。
有田工の山口洸生。身長170センチの浅野よりも小柄な165センチのスイッチヒッターは、とにかく打席を変える。
甲子園に現れた“新たな個性”
浜田戦の4回。甲子園がざわつく。
第1打席同様に本来の右打席で1球見送ると、山口が主審の後ろを小走りで移動し、左打席で仕切り直す。
2球目、バントのそぶりを見せボール。
3球目、同じように揺さぶりをかけるも見逃してストライク。
すると再び踵を返し、右打席に戻る。そして、7球目のストレートを打ちショートゴロに倒れた。山口が打席での内情を明かす。
「本当は1球ごとに打席を変えて、バントの構えをしながら野手の動きを見たり、ピッチャーを前に走らせてスタミナを削ったり。フォアボールとかで出塁したかったんですけど、審判の方から『1球ごとはやめてほしい』みたいに言われたのでできませんでした」
公認野球規則によると、バッテリーがサインを交換している最中やピッチャーがモーションに入った時点で打席を移動してしまうと反則行為でアウトになる。したがって、山口の動作はプレーとして認められているわけだ。そこで主審から注意が入ったのはいささか疑問ではあるが、故意による遅延行為やピッチャーへのかく乱に発展してしまうことを未然に防いだ、ということだろうか。
山口は「1球ごとは変えられませんでしたけど、自分の持ち味は出せました」と頷いたが、能力を最大限に解放してほしかったと、残念に思うファンもいたのではないか。