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「夏の大会は残酷です…今日で高校野球最後の3年生がいますから」人口7000人・離島野球部の“快進撃”を止めた、あるシード校監督の告白
posted2022/07/28 17:02
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
AFLO
その快進撃を止めたシード校の監督が語る「夏の大会の残酷さ」とは。
「8泊9日の大奮闘」で話題になっていた都立八丈高が、7月21日東東京大会の4回戦で惜しくも敗れた。
都立日本橋を7回コールドで下し、都立小岩は6対5の僅少差で破り、圧倒、接戦……ふた通りの勝ち方をやってのけて、夏の第5シード校・堀越高に挑んだ。
熱中症で選手が1人ベンチを外れ、総勢11選手で闘った4回戦。初回に1点先制され、中盤5回には守りに破綻があって3失点。8回にもやはり3点を失って、コールドゲーム(2対9)で「2022・夏」の幕を閉じた。
「予想はしてました。してましたけど、実際の“圧”は予想をはるかに越えてましたね。ウチの応援スタンド以外は、球場全部が八丈さんの応援でしたから」
都立八丈を破って5回戦に勝ち上がった堀越・小田川雅彦監督とは、もう20年ほどのお付き合いになる。
修徳中学の軟式野球の指導をされていた頃に、確か雑誌の取材で知り合ったように思う。年も同じぐらい、「雅彦」と「昌彦」で字は違うが、同じ「まさひこ」同士でなんとなく近しく感じられ、以来、長いお付き合いだ。
その後、修徳高の監督としてセンバツ、夏の大会一度ずつ出場。いい事ばかりじゃなくて、ちょっと忌まわしい出来事も経験され、堀越高監督としてユニフォームを着られるようになって、今年で5年目になる。ご苦労された時期が、今の「練れた味」となって、私の「野球の先生」の一人となっている。
「“ヒール”なのは、しょうがないですね」
1970年代には、毎年優勝候補に挙げられるほどの「強豪」だった堀越だが、現状はというと、小田川監督の言をそのまま借りれば、
「上(じょう)の下(げ)っていうとネガティブに聞こえるので、少なくとも、中の上ではありたいと思っています」
昨年の夏も5回戦までは勝ち上がったが、そこらへんから先に、どうも「壁」があるようなここ数年を過ごしている。
「ほかの都立校からも、ブラバンとチア(リーダー)の友情応援があって、当然なんですけど球場全体も、恵まれない環境ですごく頑張ってきた八丈さんを応援しますからね……そうなると、ウチじゃなくても、どこが相手になっても“ヒール”なのは、しょうがないんですね」
ちなみに、昔からチアリーダーを中心にした華やかな応援で定評のあった堀越だったが、この日にかぎって、学校の行事のために不在。演奏も踊りもない、静かな応援スタンドになっていた。
「スーパー中学生が入ってくる高校ではないんです」
「選手たちが、その雰囲気に吞まれそうになってましてね……ええ、試合前から。顔色も冴えないし、ベンチのムードも、いつもみたいにウワッ!と燃え上がるような盛り上がりがなくて。せっかく初回に先制したのに、守りで変な動きもあって、すぐに2回に同点にされるでしょ」