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カール・ルイスの100m世界記録9秒86はなぜ東京で誕生したのか? 1991年世界陸上スターターが明かす”早かった”号砲の真実
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byAFLO
posted2022/07/24 17:00
1991年8月25日、男子100m決勝。勝利を確信したカール・ルイスは両手を広げ、天を仰ぎながらゴールした
「うちの中継班はバレルの唖然とした表情までちゃんと映していた。『俺がこの記録を出しているのになんで?』って」
勝ったことが信じられないルイスと、負けたことが信じられないバレル。日本テレビは最後まで2人の表情の変化を見逃さなかった。
スタンドの熱狂。硬質なトラック。スターターや審判員たちの技。あるいは、風。史上最高と呼ばれるハイレベルな戦いは、それらあらゆる要素の結晶だった。
日本テレビは、日本陸連は、飯島は、「賭け」に勝ったのだ
19時6分、瞬間視聴率は大会中、最高となる38.9%を記録した。ルイスがゴールを駆け抜けた瞬間だった。
この時、東京大会の成功は約束されたと言っていい。日本テレビは、日本陸連は、飯島は、「賭け」に勝ったのだ。
時は流れ、2016年のリオ五輪の男子100m決勝も、金メダルを獲得したウサイン・ボルトを始め、6人が9秒台を叩き出した。しかし「史上最高の」と呼ばれるのは、今もなお東京大会の方だ。
今と昔では9秒台の価値が違うという理由もある。しかし、それ以上に胸を突かれるのは「2」と「6」の差だ。リオ五輪で自己ベストを更新したのは2人にとどまった。一方、あの日、あのとき、国立競技場で6番までに駆け抜けた選手は全員、「自分」という壁を打ち破った。
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