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【60歳】カール・ルイスが語る“厚底シューズは規制されるべきか” 「公平性に不満を言うなら反論をしたい」
posted2021/07/01 11:00
text by
涌井健策(Number編集部)Kensaku Wakui
photograph by
Getty Images
初出:Number Do 2020 vol.37 『ランニングを科学する』/2020年3月18日発売(肩書等全て当時)
ナイキの厚底シューズは規制されるべきなのか? 2020年の年明けから、日本で、世界で、ランニングシューズをめぐってそんな論争が巻き起こった。
背景にあるのは、昨年からナイキのヴェイパーフライネクスト%(以下、ネクスト%)が陸上長距離界を完全に席巻したという事実だ。世界のトップ選手だけでなく、日本でもMGCで男子3位までに入った中村匠吾、服部勇馬、大迫傑、そして女子2位の鈴木亜由子が着用。年明けの箱根駅伝では全体の84.7%の選手が履いたというだけでもインパクトがあったのだが、優勝した青山学院大学の選手たちが、契約するアディダスのシューズから“乗り換えて”までネクスト%を選んだ事実も「厚底一強」の印象を決定づけた。
そんな中、1月中旬に英国メディアが「世界陸連が厚底の規制を検討」と報道。日本メディアでも記事が飛び交い、規制賛成派・反対派が入り乱れて熱い議論が交わされた。1月31日に世界陸連が「ソールの厚さは40mm以下」「カーボンプレートは1枚のみ」などの新ルールを明示し、ネクスト%、そして2月に発表された新厚底ことアルファフライもルール上OKになった。
だが、まだ論争の本質的な部分は解決されていないように感じていた。
そんな中、2月上旬にNYでナイキのフォーラムに参加したカール・ルイスに話を聞く機会があった。ルイスの言葉は、当事者であるナイキと契約していることを差し引いても、メディアやSNSで展開された論争が忘れていたものを指摘してくれた。
陸上競技を「公平」の名の下に平準化するのは
「私は、ナイキのような企業には選手のために最高の靴を作ってもらえるよう奨励すべきだと思っていますし、世界陸連や他の企業がヴェイパーフライに公平性の観点から不満を言うなら反論をしたい。だって、不公平というなら、コーチも使用する練習施設も、他のアスリートと同じということはないでしょう。最新の施設の使用や素晴らしいコーチからのアドバイスは誰かに許可を受けるものではない。公平じゃないという理由で、練習場所を移動させ、コーチを変えるべきだというつもりですか? 違いますよね? シューズも同じです。
1月下旬に発表された世界陸連の新しい規制は概ね正しい方向を向いて作成されたと思いますが、陸上競技を『公平』の名の下に平準化しようとするのは、彼らの仕事ではないはずです。企業のイノベーションを促し、選手がより良いものを手にできるように支援することが彼らの仕事であるべきでしょう。
そしてシューズに関して規制をつくる場合は、私は選手の『安全』に基づくものであるべきだと思っています。着用する選手が怪我をしないかどうか。これだけにフォーカスすべきなのです」