Overseas ReportBACK NUMBER
「出産も絶望も超えて…」“史上最多19個のメダル”女王アリソン36歳が最後までレースにこだわった理由<世界陸上引退ラン>
posted2022/07/24 06:14
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph by
Getty Images
アリソン・フェリックスは笑顔が似合う。
10回目の世界陸上で引退を決めたフェリックスは、大会初日の4×400m混合リレーの2走として出場した。
1走の大学生ゴッドウィンからバトンを受け取ると、力強くコーナーを回った。バックストレートをのびやかに駆け抜けたが、250m付近から足がパタリと止まる。苦しそうな表情で必死に腕をふるが、ドミニカ共和国のエース、パウリーノに抜かれて、2位で3走のノーウッドへバトンを渡した。
レースは大接戦の末、ドミニカ、オランダに続き、米国は3位でフィニッシュし、アリソンは銅メダルを獲得した。
レースを終えたアリソンは星条旗をまとい、チームメイトたちと笑顔でハグをした。
涙はなかった。
「最後を米国で終えられて、家族、特に娘の前で走れて本当にうれしい。最高の形で現役を終えることができた。このレースを一生忘れない」
2003年17歳でパリ世界陸上に出場してから19年間、いつも颯爽と駆け抜け、我々に鮮烈な印象を残してきたが、母国の世界選手権で最後の幕を閉じた。混合リレーでの400mの記録は50秒15だった。
失望と隣り合わせだった19年
「陸上を愛していたけれど、何度も突き放され、打ちのめされ、立ち向かってきた陸上人生だった」
アリソンはそう表現する。
五輪は5大会連続で出場し、陸上の女子選手史上最多の11個、世界陸上は10大会連続で19個のメダルを獲得した。
華やかで素晴らしいキャリアに見えるが、アリソン自身は「挫折を乗り越えながらここまでやってきた」と何度も繰り返す。
最初の挫折は2008年北京五輪だった。
2007年の大阪世界陸上200mでライバルのヴェロニカ・キャンベル(ジャマイカ)を破り、自身初の21秒台を記録した。
さぁ、これで五輪で初の金メダルと臨んだが、北京ではキャンベルに敗れ銀メダル。
「努力をしても報われないこともあると知った」
悔しさ、絶望、色々な気持ちを乗り越え、2012年ロンドン五輪では個人種目で初の金メダルを獲得した。
だがその翌年には再び悪夢に襲われる。