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80年代の間違った成功体験が生んだ“部活の強制加入ルール”…ある現役教師が明かす「意義はあるのでしょうか?」校長の驚きの回答
text by
中小路徹Nakakoji Toru
photograph byGetty Images
posted2022/05/30 06:00
写真はイメージです。本文とは関係ありません
1980年代、生徒の非行が社会問題となり、校内暴力も吹き荒れた時代があった。今の学校の管理職や保護者の世代には、そうした状況が、部活動を盛んにして改善された、という“成功体験”の記憶がある。そのノスタルジーが、「部活動はいいものだ」と、決め込んでしまうことにつながってきた。
「良かれと思って『部活をやった方がいい』と勧める。一方で、生徒はもっと学校外で活動したいと思っている。そんなずれが生まれています。これに加えて、自己決定権を尊重する考え方が浸透していないところが、本質的な課題だと思います」と室橋さんは話した。
学生たちの切実な声「入学早々不登校になった」
日本若者協議会は、中高生や近年高校を卒業した大学生に、ウェブ調査を実施した。ここには、強制加入による支障について、切実な声が寄せられた。
「家計が苦しく、アルバイトをしたかったがさせてもらえなかった」
「他の習い事をやめないといけない」
「ゆとりを持って学習できず、うまく学校生活を送ることができない」
「入部しないと言ったら、生徒指導室に連れて行かれ、高圧的な態度を取られ、入学早々不登校になった」
好きなことができない環境となることへの疑問の声も多く届いた。
「NPOや社会運動などの校外活動に支障をきたしてしまう」
「部活動以外で得られるものも多い。部活動に所属しなくても、勉強系のオリンピック、大会での受賞など充実している人もいる」
「強制加入」は“苦痛をもたらす人権侵害行為”である
地域クラブやオンラインの活動を含め、生徒たちの学校外での学びの選択肢は広がった。
Aさんの勤務先の校長が理由を告げることもなく、強制加入を続けるのは、そうした時代の変化に応じた合理的な説明ができない、固定観念からなのかもしれない。
強制加入は多様な過ごし方を、生徒自身が決定していくプロセスを妨げているといえる。
スポーツ庁がまもなく提言を出す「運動部活動の地域移行に関する検討委員会」の中で、委員の末冨芳・日大教授から、強制加入の実情に関連して、こんな意見が出ていたことは注目に値する。
「生徒への部活動加入の強制は、生徒の自主性・自立性を尊重しないだけでなく、部活加入を望まない生徒に対しては苦痛をもたらす人権侵害行為であり、学校教育活動として許されないことです」