濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
団体解散の危機も…藤本つかさ休業、春輝つくしは笑顔で引退 アイスリボンのイズムと未来「プロレスは見るものじゃない、やるものです(笑)」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2022/05/22 11:00
5月4日の横浜武道館大会にて、引退試合を終えた春輝つくしを祝福するアイスリボンの選手たち。藤本つかさも休業前ラストマッチとなった
引退後は児童教育の道を目指す
つくしは24歳。2010年にキッズレスラーとしてデビューしている。引退の原因はケガや体力的なものではない。学生時代に触れた児童教育の道に進みたいという、新しい夢があっての引退だ。いつものようにテクニカルかつ破天荒な試合ぶりを見せたつくしは、最後にハム子に3カウントを献上した。フィニッシュはつくしの得意技ハルカゼ。引退にあたって、つくしから譲り受けたものだ。後輩から先輩に技を“伝承”するというのは珍しいが、2人はそれくらいの関係にあったということだ。
「プロレスが大好きです!」
そう言って、つくしはリングを降りた。その姿を見送った藤本は、7日の道場マッチからスタッフとして現場で動き出す。5月4日は、自分のため以上に人のため、団体のために動いた。これからしばらくは裏方としての活動が続く。ただ会場の売店にも立つし撮影会も行なうから、ファンの寂しさも少しは薄まりそうだ。
「バタバタでしたね」とスタッフとしての初日を終えた藤本。会場の入口で受付(モギリ)を担当し、試合が始まるとバックステージの映像を撮る。SNSの速報も。
「試合結果だったりリング上で発表になった新しいお知らせだったり、そういうものを大会中からアップしていく人手がこれまで足りなかったので。私の仕事としては、まずSNSの充実とフォロワーを増やすことですね」
「プロレスは見るものじゃない、やるものです(笑)」
これからアイスリボンは、キャリアの浅い選手が多い“若い団体”になる。そんな新生アイスリボンの船出となる道場マッチ。試合をすべて見ることはできなかったが、藤本は頼もしさを感じたという。
「みんな気合いが入ってるし、まとまってましたね。たぶん、今までは私に遠慮してた部分があるのかもしれない。“藤本がやってくれるから”と前に出ない選手もいたかも。でも今はそうじゃないですね。全員“自分がやらなきゃ”と思ってる。不安要素はないです」
メインイベントで勝利した朝陽は、試合中に腕をケガをしたものの続行し、フィニッシュまで持っていった。それもコーナーからの飛び技、今の自分にできる最高の技で決めた。
「違う技で決めてもよかったのに、そうしなかった。感動しました。ケガをするまでの内容もよかった。タイトルマッチを見てるみたいでした」
若手が育ち、それを藤本がスタッフとして支える。かつてない変化を迎えた新生アイスリボンは、だからこそ見ていく価値がある。その変化が、藤本にとっての刺激にもなる。
「みんなの試合を見て、あらためてプロレスは見るよりやるほうが面白いなって思いました。前から言ってきたことですけど、世の中の全女性に伝えたいですね。プロレスは見るものじゃない、やるものです(笑)。自分の気持ちも再確認できましたね。本当に引退じゃなく休業でよかった」
アイスリボンには“続き”がある。藤本にも。結婚、休業を経て復帰した時、藤本つかさはまた新たな、誰とも違うキャリアを築いていくはずだ。
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