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両肩脱臼で「相撲人生これで終わり」のはずが… 千代の富士が「筋肉の鎧と大横綱の地位」を手にした肉体改造〈腕立て毎日最低500回〉
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NumberWeb編集部Sports Graphic Number Web
photograph byBUNGEISHUNJU
posted2022/05/15 11:03
昭和から平成にかけての大横綱・千代の富士。“爆弾”を両肩に抱えながらも鍛錬した肉体で勝ち星を積み上げた
7日目に播竜山に寄り切りで敗れた際、右肩まで脱臼してしまったのだ。つまり、すべての幕内優勝と大横綱へとつながる道は、両肩に爆弾を抱えた状態で疾走していたことになる。その事実に、恐ろしいほどの心身の強さを感じる。
どのように気力を振り絞って土俵に上がっていたのか……想像するだけでも震えるが、現役引退を決めた直後のインタビューでは、右肩脱臼で心が折れかけたことを告白していた。それでも……。
「体に負担のかかる荒い相撲というのかな。大技を使いながら取ったもんだから、怪我にもつながっていったと思うんです。だから、これからはこういうことじゃダメだ。正攻法で肩の怪我を直しながら、肩に負担のかからない相撲を目指していかなきゃいけないと、師匠と話し合った」
ここから肉体改造に励み、千代の富士はさらなる強さを手に入れた。
腕立て伏せ、毎日最低でも500回やったよ
<名言3>
とにかく、腕立て伏せを徹底的にやった。毎日、最低でも500回やったよ。
(千代の富士貢/Number261号 1991年2月5日発売)
◇解説◇
腕を使うアスリートにとって致命傷とも言える利き腕の大怪我。力士生命最大の危機に立たされたのだが、千代の富士は91年のインタビューでこのように振り返っている。
「右肩まで脱臼した時、親方に、お前は、こんないい相撲を前に取ったこともあるじゃないか、それなら、肩にも負担がかからないし、いいんじゃないかと言われて、それが前まわしを取って頭をつける相撲だった」
九重親方の教えを胸に、相手に食いついていき、前みつを取るスタイルへの変貌を決断した。ただ懸念の肩については手術という処置を選ばなかった。
「手術して直すのが一番簡単だという話だったけど、回復するまで半年以上かかる。それだと地位も落ちちゃうし、動きも前より鈍くなると言われて、肩に筋肉をつけることにしたんだ」