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相撲春秋BACK NUMBER
「今は断髪式が心配なの(笑)」「珍しい横綱5人掛かりもやりたい」引退から3年・安美錦が“同級生”能町みね子に語った、断髪式のプラン
posted2022/05/15 06:01
text by
佐藤祥子Shoko Sato
photograph by
Tomosuke Imai
令和元年(2019年)7月場所2日目、西十両11枚目の地位で右膝を負傷し、それまで度重なる大ケガを乗り越えてきた不屈のベテラン業師は、とうとう土俵を去る決断をした。この時、40歳9カ月――。
安美錦の相撲人生を入門時から見続けて来た好角家のコラムニスト・能町みね子さんは、安治川親方と同学年。この夏場所後の5月29日に両国国技館で開催される「安美錦引退 年寄安治川襲名披露大相撲」を前に、同じ昭和53年度生まれの”同級生対談”と相成った(全2回の2回目/#1へ)。
能町みね子(以下、能町) 思い返すと、長年大相撲ファンとしていろいろ見ているうちに、安美錦関の相撲には味があって“相撲らしい相撲だな”と思うようになっていったんですよ。
安治川親方(以下、安治川) “頑張ってる感”がわかりやすいからね。
能町 それもちょっとあるのかもしれないな(笑)。引退が近づいてきた時期というのか、「ちょっと、なりふり構わなくなってきたのかも」との感じを受けたことがあるんです。そんな姿も、私としてはグッと来ていたんですが……。それまであまりやらなかったことを安美錦関がやるようになったんです。
安治川 必死な感じ? 相撲が荒々しくなった?
能町 そう、ちょっと荒々しくなった。なんとなく憶えているのは、ある場所の英乃海戦で、下から張り手に行ったんですよね。
安治川 そうだった? 鼻をチョンッとやったくらいじゃないの(笑)?
能町 安美錦関をずっと見てきて、私が思うのは、どんどんとちゃんこの味が染み渡って行き、もっとその先に行ってしまっているというか……。
安治川 鍋の底にあるクタクタの白菜みたいな感じか。〆に食べるうどんにくっついてるヨレヨレの白菜(笑)。
能町 シャキシャキの白菜だったのが、煮込まれ続けているというか(笑)。でも、ひとりのお相撲さんの人生を、そうなるまでずっと見続けられる。そこが「大相撲っていいな」と思えるところでもあるんです。
安治川 能町さんは、22年半も見続けてくれていたんだものね。
今はただただ、断髪式のことが心配なの(笑)
能町 安美錦関がいざ引退するという時は、やはり複雑でした。大ケガしたりするのを見ていて、内心は「もういいよ」「これ以上、無理しないでいいよ」と、つい、そういう気持ちにもなってしまっていた。勝負師に対して失礼になっちゃうかもしれないけれど、「もう、いつ引退してもしょうがないんだ」という気持ちになっていたんです。最後は、十両の下位の番付でまたケガをしちゃったから、正直、幕下の地位に落ちてまで相撲を取る姿は見たくなかった。引退の報を聞いた時は、残念というよりも何よりも、「本当にありがとうございました」という感じ。改めて、これだけ長い間、土俵に上がってくれて、ありがとうございました。